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SaaSソリューションの構築とデリバリに伴う価格設定で重要となる考慮事項

SaaSソリューションの構築とデリバリに伴う価格設定で重要となる考慮事項

注:本記事は(2021年10月12日)に公開された(Key Pricing Considerations for Building and Delivering SaaS Solutions)を翻訳して公開したものです。

SaaS収益モデルは、ソフトウェアプロバイダーがいかに収益を生むかについての枠組みを示すものです。このモデル内におけるプロダクトに対する価格設定と請求処理の概念はシンプルです。つまり、プロダクトまたはサービスに対して、カスタマーがいくらなら納得して支払うかということです。

しかし、自社のSaaSソリューションに適した価格構造を決定することは、それほど簡単に感じられるものではありません。価格設定は、収益モデルの中で下すビジネスと収益性に関する意思決定のうち、最も重要な決定の1つです。適切に価格設定されたソリューションは、カスタマーを引き付け、市場シェアを伸ばします。一方、価格設定が不適切なソリューションは、儲けのチャンスを逃す(価格が低すぎる)か、ビジネスを競合企業に取られる(価格が高すぎる)結果となります。価格構造の選択の際は、こうしたプレッシャーが重くのしかかります。 

カスタマーの視点から言うと、価格設定は、価値と魅力という2つに要約されます。カスタマーにとって、その価格設定は、提供される知覚価値に沿ったものであると確信できるものでなくてはならず、その価値は、競合企業が提供している価値よりも高く、またカスタマーが現状を維持するより魅力的である必要があります。

パッケージング構造と価格ポイントは、カスタマーを獲得、維持するための2つの価格設定メカニズムであり、このメカニズムを用いることで、ソリューションの価値を伝え、市場の中でソリューションを位置づけ、競争上の優位性を確立することができます。パッケージング構造は、カスタマーがどのようにソリューションを利用し、支払うか、価格ポイントは、さまざまなオプションに対してカスタマーがいくら支払うかを決定付けます。

もちろん、価格設定においてはコストと経費も一定の役割を果たします。SaaSプロバイダーとしての価格設定モデルは、提供内容の本質的な部分、すなわちSaaSソリューションを支えるクラウドやデータアーキテクチャを考慮したものである必要があります。カスタマーがアプリケーションの利用に対して支払う方式と、アプリケーションの提供に付随するコストとを整合させなければ、持続不可能な試みに終わる可能性が高くなります。

新興のSaaS企業であろうと、さまざまな製品の中にSaaSを追加しようとしている資力十分な企業であろうと、確かなことが1つあります。それは、価格設定は必ず収益やビジネスモデルに影響を及ぼし、成功の機会が到来したときに大きな役割を果たすということです。だからこそ、SaaSプロバイダーはクラウドやデータアーキテクチャを考慮しながら、価格設定やパッケージングの意思決定を下す必要があります。 

プロバイダーはご用心:サブスクリプション価格によっては干上がってしまう可能性も

この10年以上、SaaSプロバイダーはさまざまな形のサブスクリプション価格設定に依存してきました。これにはたとえば、ある一連の機能を一定期間(月、年、複数年)にわたり、固定の均一料金で提供したり、さまざまな水準の機能に対して、多様な価格ポイントでの階層型サブスクリプションモデルを使用するなどの方法があります。

現在、最も一般的に用いられているサブスクリプションモデルは、プロダクトまたはサービスを、設定された期間にわたって、シート単位またはライセンス単位で提供するというものです。購入する際、カスタマーは、ソリューションが従業員によって受け入れられるのか、受け入れられるとしたらどのように受け入れられ、使用されるのかすら分からない段階で、シートまたはライセンスがいくつ必要になるかを前もって見積もる必要があります。

よく採用されているのは、標準サブスクリプションモデルです。このモデルでは取引の複雑さがかなり軽減されており、カスタマーは事前に購入の予算を立てることができ、プロバイダーも比較的正確に売り上げの予測をすることができます。にもかかわらず、標準サブスクリプションモデルは、ある単純な理由から、SaaSプロバイダーにとってはたいてい最良の選択肢にはなりません。その理由とは、整合性に欠けているということです。

  • カスタマーは、使用量と費用との間に高い整合性を求めます。昨今のカスタマーは、使用されずに終わるかもしれないシートにお金を払いたくない、またはソリューションから完全な価値が得られるという保証がないうちにお金を使いたくないと考えます。
  • SaaSプロバイダーは、コストと収益の間の整合性を高める必要があります。多くのSaaSプロバイダーは、カスタマーから定期的に得られる固定金額と、カスタマーをサポートするためにクラウドおよびデータプラットフォームベンダーに支払う可変コストとの間に大きな金銭的ギャップがあることに気づいています。

この2つ目の主張は、最新のSaaSソリューションがクラウドとデータアーキテクチャによって支えられており、これらのベンダーは使用量をベースとして消費ベースのモデルを用いてカスタマーに課金しているという事実を示唆しています。つまり、SaaSプロバイダーは、そのカスタマーや従業員が利用しているクラウドサービスやデータサービスの量の分だけ支払いをしています(可変インフラストラクチャ費用)。

今、皆さんの頭の中で警鐘が鳴っているのも当然だと言えるでしょう。SaaSプロバイダーが1年間のサブスクリプションの支払いを得て半年後に、カスタマーが利用するクラウドサービスやデータサービスの量がとんでもないことに気づく状況は想像に難くありません。カスタマーの適応が早ければそれだけ、SaaSプロバイダーの利ざやの圧縮が早くなります。ソリューションを支えるクラウドやデータリソースの実際の利用量よりもサブスクリプション料金の方が低いため、そのカスタマーは会社から毎月お金を吸い取る存在になります。

そこでカスタマーに料金の追加を依頼しても遅すぎます。サブスクリプションはそういう仕組みではないからです。

このシナリオは、SaaSプロバイダーが理想とするカスタマーのタイプ(関心度が高いアクティブユーザー)が、いかに弱点となり、会社、特にキャッシュが少なく余裕がない新興企業を財政的に圧迫するかを示す好例です。

SaaSソリューションにとって消費量ベースの価格設定が良い選択である理由

価値と使用量を整合させる一番良い方法は、上から下まで同じ価格設定モデルを据えることです。SaaSプロバイダーがクラウドプロバイダーやデータプラットフォームプロバイダーに消費量ベースの料金を支払っている場合、カスタマーにも何らかの消費量ベースの価格設定を提示するべきです。カスタマーがSaaSソリューションのヘビーユーザーであろうとライトユーザーであろうと、常に使用量ベースの価格設定で適切に課金します。これは、使用量とコストの釣り合いを取りつつ、プロバイダー側の利ざやを確保する唯一の方法です。

SaaSソリューションの構築とデリバリにおいては、その時々で最善を尽くすことが求められます。価格設定を後回しにすることはできません。むしろ価格設定は、カスタマー、GTM(市場開拓)戦略、およびコストに関する議論を推進するはずです。SaaSソリューションの価格設定において、消費量ベースのモデルが最良のアプローチである理由は、主に下記の4つとなります。

1. 本質的に、カスタマーに提供する価値と整合する

SaaSのプロダクトやサービスとなると、カスタマーには数多くの選択肢があります。だからこそカスタマーは、金額に見合う真に価値あるソリューションを導入しようとします。消費量ベースの価格設定であれば、次のシンプルな3つのフレーズで、価値をカスタマーに伝えることができます。

  • 使用していない分に対して支払う必要はありません。
  • 追加料金が発生するのは、さらに多く価値を引き出し、利用するときだけです。
  • 無駄がありません。

消費量ベースのモデルは、カスタマーの使用量とプロバイダー側の経済的成功とを結びつけることで、カスタマーへのコミットメントを示すものです。これで一気に、ベンダーではなくパートナーとなれます。カスタマーがソリューションを利用することでのみ、会社の成功が実現するわけです。シェルフウェアについて議論する日々や、必要のない機能にも支払わなければならないといった状況は過去のものです。使いたくないものには払わない。とてもシンプルです。

プロからのアドバイス営業担当者の報酬とカスタマーの消費量をリンクさせましょう。契約成立だけでなく、カスタマーのソリューション利用量も営業担当者の報酬に反映させるようにすれば、契約が成立したあとも新しい使用事例を発見するなどして、カスタマーとより深く関わり、ソリューションの活用の加速をさらに後押しすることが、営業担当者の利益に適うことになります。カスタマーがプロダクトを使用するまでは収益が発生しないことを忘れないでください。

2. GTM戦略が加速する

消費ベースの価格設定のすばらしい点は、カスタマーを引き付けることで、コミットメントの必要なく、簡単に市場シェアが獲得できるところです。消費量ベースの価格設定モデルには、「ランド・アンド・エキスパンド」の概念が織り込まれています。見込み客は契約の規模調整や事前のリスク負担なしに、単純にSaaSソリューションを試すことで、自身でその価値を確認できます。

新しいユーザーをオンボーディングする方法は2つあります。「使用したものに対して支払う」ということは、カスタマーが非常に低いコストでソリューションを試すことができること、つまりプロバイダーが無料の利用クレジットを付与することで、無料トライアルを提供できることを意味します。利用クレジットを提供できるということは、「トライアル」または「フリーミアム」サブスクリプション層のための複雑な価格設定モデルやパッケージングモデルを設ける手間を省くことにつながります。

同様に、消費量ベースの価格設定により、複雑なサブスクリプションモデルや、ユーザーのタイプまたはロールに基づくユーザー価格設定モデルが排除されることで、チームのオペレーションがシンプル化されます。使用量ベースの価格設定価格設定は、より簡潔で理解が容易です。誰が使おうと消費は消費だからです。これらの価格設定上のハードルを取り除くことで、スピード感のある市場投下が容易になります。

プロからのアドバイス:事前に時間をかけて、価値を捉えるためのシンプルかつ測定可能な使用量ベースの指標を決めておきます。これがビジネスモデルの根底となり、より迅速な規模の調整が可能になります。

3. SaaSプロバイダーとしてかかるコストに合わせる

GTM戦略が、基盤となるクラウドおよびデータプラットフォームに沿ったものであれば、インフラストラクチャベンダーはもはや売上原価(COGS)としてではなく、新規または強化型の収益および利益の実現要素と見なされます。

大手クラウドサービスプロバイダーはすべて、最新の価格設定データプラットフォームと同様、消費量ベースの価格設定を採用しています。カスタマーに対して使用量ベースの価格設定を採用することで、潜在的なコストはカスタマーの使用量と同期して推移します。クラウドおよびデータベンダー費用とカスタマーがソリューションに対して支払う金額との間に不整合が生じることはありません。

使用量ベースの価格設定はまた、カスタマーへの価値の提供が容易になる一方、収益は上昇し利益率が拡大します。事実、使用量ベースの価格設定を採用している企業は、採用していない企業と比較して、収益の成長率が38%高いという結果が出ています。

プロからのアドバイス:使用量ベースの価値測定基準は、クラウドプロバイダーの使用料金と1:1で一致する必要はありません。それよりも、使用量ベースの価値測定基準とプロバイダーの料金との間の相関関係を特定し、それに基づいてソリューションの価格を設定するようにします。   

4. 今と将来のカスタマーに関する理解を深めることが必要

使用量ベースの価格設定の短所は、顧客にとっては支出を、SaaSプロバイダーにとっては収益を予想することが難しい点です。そこで役立つのがデータです。

個々のカスタマーの使用量と、さまざまな企業規模、使用事例、業界、カスタマータイプ全体での消費傾向を測定することで、SaaSプロバイダーはデータ分析を実行し、カスタマーの動向をリアルタイムで把握できます。これらのインサイトは、従来のユーザーベースのサブスクリプションモデルを採用しているSaaS企業にとっては「あれば尚可なもの」と見なされるかもしれませんが、消費量ベースの価格設定を採用している企業にとっては必須項目となります。 

定期的な分析は、使用量の予測を可能にするだけでなく、傾向をカスタマーにシェアすることで、カスタマーの適切な予算管理を支援することにもなります。こうして得られたデータドリブンなカスタマーインサイトは、同じ規模や業界の新しいカスタマーに使用量の傾向を示す際にも役立ちます。時を経てデータがさらに増えるにつれ、使用量に関するインサイトを定期的にカスタマーに提供することで、使用量ベースの価格設定モデルに付随するある種の不確かさを解消できます。

データドリブンなカスタマーインサイトは、ソリューションに将来どのような強化機能を構築すべきかを判断する際にも役立ちます。カスタマーの実際の使用量に基づく開発ロードマップを立てることにより、収益性の最適化とカスタマー満足度の向上を図ることができます。

将来は消費量ベースの価格設定で決まり

複雑な問題を解決する消費量ベースでデータドリブンなクラウドソリューションの採用が加速したことは、パンデミックが世界にもたらしたプラスの結果の1つです。近い将来、クラウドおよびデータプラットフォームをインフラストラクチャとするSaaSソリューションが構築されるようになるでしょう。消費量ベースの価格設定により、SaaS企業はクラウドとデータへの投資を最大化し、それらを生かすことが可能になるだけでなく、ビジネスモデルの規模を簡単かつ迅速に調整できるようになります。

同時に、消費量ベースの価格設定モデルを採用することで、ソリューションのデリバリの加速とシンプル化が進み、収益維持率の高いGTM戦略を推進できます。またデータは、カスタマーや使用量に関するインサイトを提供することで新しい意味を帯び、時代遅れとならないSaaSアプリケーション作りに役立ちます。

特に、消費量ベースの価格設定はカスタマーが望んでいることですから、自分が使った分を支払うという仕組みを喜んで受け入れるでしょう。今こそ、その価値を提供するべきです。

このブログは価格設定モデルに関する3つのブログの第一弾です。次のブログでは、SaaSソリューションの価格設定に関するベストプラクティスと戦略について取り上げる予定です。

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