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AIオブザーバビリティ

基礎ガイド

AIオブザーバビリティ:本番環境AIにおける信頼と制御

AIシステムがビジネスの核心となるワークフローに組み込まれる今、企業にはその動向をクリアに可視化し、挙動を適切にコントロールする手段が求められています。AIオブザーバビリティは、障害のトラブルシューティングや品質向上に必要なトレース、メトリクス、評価結果、そしてガバナンスの根拠データを蓄積します。これらのデータが揃うことで、チームは本番環境のAIシステムを自信を持って安定運用できるようになります。

AIオブザーバビリティの定義

AIオブザーバビリティとは、AIシステムに測定機能を組み込み、追跡や評価を行う手法のことです。これにより、本番環境においてインプット、データ、プロンプト、モデル、ツール、アプリのロジックといった各要素が、最終的なアウトプットにどう影響を与えているかを正確に把握できるようになります。

特に顧客サポート、財務分析、コンプライアンスワークフロー、経営判断といったビジネスに直結する領域で AI(人工知能)を活用する場合、不適切なアウトプットはビジネスリスクとなります。しかし、ほとんどのエンタープライズAIの導入環境では、システムがなぜその回答を出力したのか、あるいは問題が発生したときにどう対処すべきかについて、驚くほど可視化されていません。

AIオブザーバビリティの本領は、開発段階の管理された環境を飛び出した、実戦におけるAIシステムの挙動を可視化できる点にあります。本番環境でのアウトプットは、AIモデルそのものだけでなく、プロンプトや社内ポリシー、ツールの呼び出し状況、レイテンシー、さらにはリクエストの瞬間にシステムが参照したデータなど、無数の要素に左右されるからです。

こうした本番ならではの複雑な挙動を的確に把握し、このAIシステムは本当に信頼できるのかという運用の成否を分ける重要な問いに答えるための武器が、まさにこのオブザーバビリティなのです。

  • このシステムは実際に何を行っているのか?
  • その理由は?
  • 信頼できるのか?

AIを中身の見えないブラックボックスのままにせず、大規模な運用環境でも常に監視、測定、検証し、適切なガバナンスのもとでコントロール可能なシステムへと進化させる。それこそが、オブザーバビリティの本質です。ビジネスに不可欠なデータ上でAIを運用する組織にとって、オブザーバビリティは信頼できるエンタープライズAIを構築する基盤となります。

AIオブザーバビリティとは

AIオブザーバビリティとは、インプットからアウトプットに至るすべてのプロセスにおいて、AIシステムがどう振る舞っているかを正確に把握、評価するための手法です。たとえば生成AIアプリケーションの場合、ユーザーが入力したプロンプトを起点に、参照したドキュメント、モデルの応答、ツールの呼び出し状況、さらにはAIが答えを導き出すまでの中間推論ステップ、レイテンシー、トークン使用量、コスト、最終的な評価スコアまで、あらゆる足跡を網羅して追跡します。エージェント型システムの場合、エージェントが実行した一連のアクション、選択したツール、その過程でアクセスしたデータなども含まれます。

AIオブザーバビリティは、主に4つの機能によって支えられています。

  • 透明性チームがAIシステムの挙動をクリアに可視化し、プロンプト、検索されたコンテキスト、モデルの応答、ツールの呼び出し、そしてアプリケーションのロジックが、一連のワークフロー全体でどのように相互作用しているかを一目で把握できるようにする必要があります。これらを可視化することで、問題がどこで発生しているか、解決するために何に対処すべきかが明らかになります。
  • 測定可能性:組織がAIを運用するにあたっては、そのアウトプットが業務プロセスにおいて正確か、適切か、事実に基づいているか(グラウンディング)、そして安全でタイムリーかつコスト効率に優れているかを、一貫した基準で評価する手段が欠かせません。この測定可能性が担保されて初めて、チームは勘や推測に頼ることなく、確かな根拠に基づいてプロンプトやモデル、検索戦略、各種設定の優劣を比較、検証できるようになります。
  • ガバナンス可能性:AIシステムは、企業のガバナンスの範囲内で稼働する必要があります。これは、アクセスポリシーの遵守や、承認されたデータソースの利用、評価プロセスの記録、そして障害発生時に原因を徹底究明するための十分なトレース証跡の保持などを徹底することを意味します。AIが法規制の対象となる業務に組み込まれ、機密データを扱う機会が増える今、オブザーバビリティは単なる現場のエンジニアリングの課題として片付けるべきではありません。組織全体の不可欠なAIガバナンス構造の一部として組み込む必要があります。
  • 説明可能性:ビジネスユーザーや監査人、開発者、そして経営層にいたるまで、あらゆるステークホルダーがAIのアウトプットを信頼するためには、まずそれがどのようなプロセスで導き出されたか納得できなければなりません。ここで言う説明可能性とは、AIモデルの内部構造をすべて開示することではなく、チームが検証、修正、改善を行うために必要なインプットやコンテキスト、意思決定パス、そして評価の裏付けを明確に示すことを意味します。
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カスタマーストーリー:西武ホールディングス

西武ホールディングスは、Snowflakeをグループ共通のデータ基盤として導入し、多角的な事業データの統合と可視化を推進しました。同社は、Streamlitを活用して全グループのデータ資産を一元的に追跡・管理できる「データカタログ」をわずか3〜4日で自作し、高額な外部ツールのライセンスコストを完全に削減しました。さらに、Snowflake CortexのAI機能を活用した感情分析など、安全かつモニタリングが容易なデータ利活用環境を整備することで、グループ全体の迅速な意思決定とセキュアなAI運用(オブザーバビリティ)の自動化を実現しています。

AIオブザーバビリティとMLモニタリング、モデルモニタリングの比較

AIオブザーバビリティは、従来のモデルモニタリングやML(機械学習)モニタリングと共通する部分もありますが、カバーする領域はより広大です。

  • モデルモニタリングは、デプロイされたモデルに焦点を当てます。チームは、モデルの予測が正確に維持されているか、インプットデータがドリフトしていないか、レイテンシーが変化していないか、そしてモデルが期待されるサービスレベル目標に対して依然としてパフォーマンスを発揮しているかを追跡します。これは、多くの教師あり 機械学習 (ML)システム、特に不正検知、チャーン予測、需要予測など、正解(グラウンドトゥルース)が明確なシステムにおけるモニタリングの中核となります。
  • MLモニタリングは、監視する範囲をパイプライン全体に広げます。例えば、バッチ処理での欠損値の混入、スキーマ変更によるデータ変換のエラー、さらには特徴量やラベルの到着の遅れといったトラブルは、すべてモデルの性能低下を招く原因になります。そのためMLモニタリングでは、モデルそのものだけでなく、データの品質や特徴量の鮮度、パイプラインの健全性、そして予測の挙動にいたるまで、モデルを取り巻く運用プロセス全体をくまなく追跡するのです。
  • AIオブザーバビリティでは、AIシステム全体をモニタリングします。というのも、大規模言語モデル(LLM)アプリケーションにおいて、AIモデル自体は複雑に連なるシステム全体の一つのパーツにすぎないからです。例えば RAGアプリであれば、「5つのドキュメントを検索し、そのうち最適な3つをプロンプトに組み込んでLLMを呼び出し、出力にガードレールを適用した上で、実際の業務ワークフローへ書き込む」といった一連の処理を行います。またAIエージェントの場合なら、「タスクの計画を立て、検索ツールを動かし、データベースにクエリを投げ、結果を要約した上で別のツールを実行し、最終的な提案をまとめる」という複雑なステップを踏みます。だからこそ、真のオブザーバビリティを実現するためには、最終的な回答だけを監視するのでは不十分です。そこに至るまでのすべてのトレースを、漏らさず捉え続けなければならないのです。

チームがモデルの開発やデプロイから本番環境でのモニタリングや管理に至るまで、機械学習のライフサイクルをどのように運用しているかについてはMLOpsに関するガイドをご覧ください。

オブザーバビリティの3つの柱

オブザーバビリティの3大要素は、ログ、メトリクス、トレースです。この基本はAIシステムでも変わりませんが、何を監視するのかという対象が変わります。これまでのシステム監視のように、サーバーのエラー率やCPU使用率、APIレイテンシーだけを追いかけていればいいわけではありません。AI運用においては、入力されたプロンプトや検索されたドキュメント、モデルの応答、埋め込みの挙動、トークンの消費量、ツールの呼び出し状況、さらには事実に基づいているかのスコアや、ユーザーからのフィードバックにいたるまで、AI特有のあらゆる要素に目を配る必要があるのです。

ログ

イベント単位で記録されるログには、使用されたプロンプトテンプレートやユーザーからの質問内容、AIモデルの名前に加え、応答時のメタデータや情報検索の内容、実際に参照されたドキュメントなどが残されます。さらに、ツールの呼び出し状況や安全ポリシーの適用結果、エラーメッセージ、そしてユーザーからのフィードバックにいたるまで、あらゆる実行記録を捉えることができます。エンタープライズ環境では、これらの記録自体にもガバナンスが必要です。プロンプトとレスポンスには、専有データ、規制対象の情報、または社内のビジネスコンテキストが含まれる場合があるため、保持、マスキング、ロールベースのアクセス制御を設計に組み込む必要があります。

優れたログ管理とは、トラブル調査に必要な情報をしっかりと残しつつも、オブザーバビリティの仕組み自体が野放しの機密データの温床にならないよう配慮されているものです。そのため、業務の性質によっては普段はメタデータのみを保存しておき、正式に認められたトラブル調査の際にだけ、プロンプトや回答の具体的な中身へ厳格な権限管理のもとでアクセスを許可するといった運用が現実的な解となります。

メトリクス

時間の経過とともに蓄積されるメトリクスは、システムが安定して稼働しているかを判断するバロメーターになります。たとえば、レイテンシーやスループット、エラー率、リクエスト数、トークン消費量、1リクエストあたりのコストなどは、インフラや運用の健全性を測る指標となります。一方で、事実に基づいているか、回答や参照コンテキストの妥当性、事実の正確性、AIによる回答の拒否率、有害性、網羅性、一貫性といった項目は、AIそのものの出力品質を見極めるための基準として機能します。

従来の機械学習(ML)の現場では、データドリフトや予測ドリフト、コンセプトドリフトといった指標を用いて、モデルが今も、開発時に想定していた条件下で正しく動いているかを評価してきました。予測モデルが構造化データを扱い、明確な正解ラベルが存在する場合は、ポピュレーション安定性インデックス(PSI)や特徴量の寄与度、SHAP値といった統計的な手法が、その分析を強力に支えてくれます。しかし、生成AIの世界では勝手が異なります。アウトプットはすべて自然言語であり、その良し悪しは単一の正解ラベルではなく、コンテキストに照らし合わせて総合的に判断されるからです。そのため生成AIの評価においては、AIが検索された情報をどれだけ的確に活用できているか、あるいは業務ごとに定めた評価基準をどの程度クリアしているかを、的確にスコアリングする新たなアプローチが求められます。

トレース

1回のリクエストが発生した際、システム内部での処理の移り変わりを最初から最後まで一本の線で追いかけるのがトレースの役割です。例えばシンプルなチャットボットであれば、追跡対象はユーザーのプロンプト、モデルの呼び出し、AIの応答という基本的なステップだけで事足ります。しかし、これがRAGアプリケーションになると、トレースがカバーする範囲が広がります。元の質問文から始まり、情報の検索、抽出されたデータの順位付け、プロンプトへの組み込み、実際のAI推論、その出力に対する品質評価、そしてユーザーへの最終的な回答にいたるまで、すべての足跡を記録していくことになります。これがさらに自律的に動くAIエージェントのワークフローになると、追跡対象には、AIによる計画策定やツールの選択、ツールからの返答、再試行、そして中間アウトプットまでが含まれるようになります。

トレースの価値は、これら一連の処理がどのようなシーケンスで行われたかを保存できる点にあります。例えば、AIの回答が誤ったポリシーを引用している場合、トレースを確認することで、誤ったドキュメントが検索されたのか、正しいドキュメントは検索されたものの無視されたのか、あるいは正しいコンテキストを受け取ったにもかかわらず、モデルが根拠のないテキストを生成したのかを特定できます。また、エージェントが単純な質問への回答に45秒を要している場合でも、その時間がモデルの推論、応答の遅いツール、繰り返された検索、あるいはエージェントの計画におけるループのいずれに費やされたかを明確に判別できます。

Snowflakeの最高データ&アナリティクス責任者であるAnahita Tafviziが、信頼できる生成AIを支えるアーキテクチャについて解説する動画をご覧ください。

AIドリフトの特定

AIシステムが構造化データ、非構造化ドキュメント、埋め込み、ランタイムコンテキストを組み合わせるようになるにつれ、ドリフトの発生箇所も多様化しています。

  • データドリフト:データドリフトは、入力データが時間の経過とともに変化することをいいます。例えば、前年のサポート履歴で学習したカスタマーサポート用の分類モデルは、運用を続ける中で、新たな製品カテゴリや専門用語、あるいは新しいエスカレーションパターンといった未知のデータに直面することになります。
  • コンセプトドリフト:コンセプトドリフトは、入力と結果の関係性が変化することです。例えば、不正検知モデルがある特定の不正パターンを学習した後に、これまでにない新しい手法が登場した場合、それまで有効だった古い相関関係の信頼性は低下します。
  • 予測ドリフト:予測ドリフトは、出力の分布が変化することです。たとえば、以前は全体の10%を高リスクと分類していたモデルが、ビジネス側での想定外の要因により、現在は35%を高リスクと分類するようになるケースが挙げられます。
  • 埋め込みドリフト:データ、モデル、または埋め込み戦略の変化に伴い、ベクトル表現が変化することを埋め込みドリフトといいます。RAGシステムにおいては、この変化が検索されるドキュメントの選定や、システムが判定する2つのコンテンツ間の類似度に直接影響します。
  • データ品質ドリフト:システムに入力されるデータの状態が劣化するのは、データ品質ドリフトです。欠損値の発生や更新の遅延、スキーマ変更、レコードの重複などは、モデル自体に変更がない場合でも、システムが処理するデータそのものの品質に影響を及ぼします。
  • 公平性とバイアスドリフト:公平性とバイアスドリフトでは、特定グループへの偏りや不均等が生じます。モデルの挙動は、たとえばユーザーグループや地域、製品ライン、言語パターンといったセグメントごとに異なる変化を示します。オブザーバビリティを導入することで、出力品質の低下や回答の拒否、エラーの発生率が特定のセグメントに偏って分布していないかを検知できます。

よくある落とし穴

単なるモニタリングだけでは、システムの運用管理として不十分です。モニタリングは、何かが変化したという事実を検知するにとどまります。一方、オブザーバビリティは、ログ、メトリクス、トレース、そして各種評価データを包括的に提供するため、「なぜその変化が起きたのか」という根本原因を突き止め、具体的な修正対応へ繋げることが可能になります。

LLMとエージェント型AIのオブザーバビリティ

LLMオブザーバビリティが対象とするのは、チャットボットやドキュメントアシスタント、要約ワークフロー、コーディングアシスタント、Text-to-SQLインターフェース、RAGアプリケーションなど、大規模言語モデルを組み込んだシステム全般の挙動です。こうしたシステムにおいて、最終的な出力品質を左右するのはモデル自体の応答性能だけではありません。アプリケーションが適切なコンテキストを検索できたか、的確なプロンプトを構築できたか、所定の制御プロセスを遵守できたか、そして生成された回答が有用かつ客観的根拠に基づき、ガバナンス要件を満たしているかなど、システム全体の連動性を総合的に検証することが不可欠です。

RAGパイプラインのトレース

RAGパイプラインでは、モデルが応答を生成する前に回答の方向性が決定されます。しかし、場合によってはクエリが曖昧であったり、検索レイヤーが関連性のないドキュメントを返したり、プロンプトに正しいドキュメントが含まれているもののそれを引用する指示が抜けていたりすることがあります。こういった際にモデルは、もっともらしく聞こえるものの、検索されたコンテキストによって裏付けられていない回答を生成する可能性があります。

グラウンデッドネススコアはこうしたエラーの検知に有効ですが、問題の発生箇所までを特定できるのはトレースです。クエリ、検索ドキュメント、チャンクの順位付け、プロンプト構築、モデル応答、評価結果にいたる一連のプロセスを記録しておくことで、問題の起点が検索、コンテキスト選択、プロンプト設計、モデルの挙動のいずれにあるのかを正確に判別できます。

プロンプト、応答、コスト、レイテンシーの監視

プロンプトと応答のトレース機能は、開発者がリクエストパスを検証する手段となります。単一のトレース内に含まれる各スパンが、情報検索やモデル呼び出し、外部ツールの実行といった一連の処理を記録するため、分散した個別のログから手動でワークフローを再構成する手間なく、各ステップの詳細を検証できます。

また、トークン使用量のモニタリングは、コストとパフォーマンスの最適化に直結します。特に、アプリケーションが長いプロンプトを送信している場合や、過剰なコンテキストを検索している場合、あるいはツールの呼び出しをループさせている場合などの状況把握に有効です。レイテンシーのメトリクスは、応答速度の低下が情報検索、モデル推論、オーケストレーション、外部サービスのいずれで発生しているかを特定する手がかりとなります。これらのシグナルを統合して分析することにより、品質、速度、コストをそれぞれ独立した課題として切り離すことなく、システム全体を最適化するための的確なチューニングが可能になります。

エージェントのステップとツール呼び出しのキャプチャ

エージェント型AIは単にプロンプトへ回答するだけでなく自律的に動作するため、そのオブザーバビリティにはさらに別次元のレイヤーが加わります。実際、エージェントは検索ツールの呼び出し、構造化テーブルへのクエリ実行、ドキュメントの参照、情報の要約、そしてユーザーへ追加質問を行うかどうかの判断にいたるまで、一連のアクションを連続して実行します。

そのため、オブザーバビリティには、エージェントが適切なツールを選択したか、正しいデータにアクセスしたか、そして妥当な局面で処理を停止したかを検証できるよう、そのシーケンスを記録することが求められます。この段階的な記録が存在しない場合、バックエンドのワークフローがどれほど非効率で、根拠に乏しく、あるいは規定のポリシーを逸脱したものであったとしても、ユーザーに返された最終的な回答自体は一見して問題がないように見えてしまうというリスクが生じます。

生成AIテレメトリの標準化

OpenTelemetryは、LLMやエージェント型AIのオブザーバビリティにおける標準仕様として重要な地位を確立しつつあります。その「生成AIセマンティック規約」では、モデルの呼び出しやトークン数に加え、組織が選択した場合には、プロンプトの内容、出力結果、ツールの呼び出し状況やその実行結果にいたるまで、一連の操作を記録するための具体的なフレームワークが定義されています。

AIアプリケーションは、複数のフレームワークやモデル、インフラ層にまたがって構築されるケースが少なくありません。そのため、システム間での挙動の比較、計測実装パターンの再利用、そして監視ツールの乱立による運用の断片化を防ぐ上で、共通のテレメトリモデルの採用は不可欠です。

AIオブザーバビリティの実装方法

AIアプリケーションにテレメトリを実装する前に、本番環境でシステムが何を証明しなければならないかを決定する必要があります。たとえば、カスタマーサポートのアシスタントであれば、提示した回答が最新のポリシーに基づいていることの証明が求められます。一方、財務アシスタントであれば、予算や実績の差異分析を導き出すにあたり、どのテーブル、メトリクスの定義、および報告期間を参照したのかを明示する必要があります。

このように、対象となるワークフロー固有の要件によって、キャプチャすべきデータの本質が決まります。リスクの低いワークフローでは、軽量なフィードバック、サンプリングされたトレース、基本的な品質チェックだけで十分な場合があります。一方、厳しい規制の対象となる業務や、ビジネスの根幹に関わる重要なワークフローでは要件が異なります。プロンプトやモデル、検索処理の変更を本番環境へデプロイする前に、より詳細なトレース、厳格な評価データセット、アクセス制御された監査記録、そして明確な本番移行の基準を整備することが不可欠です。

テレメトリによる実行パスの実装

システムの状態を可視化するために、ログやメトリクス、トレースといったデータを記録、収集する仕組みをインスツルメンテーションと呼びます。AIシステムにおいては、モデルそのものだけでなく、プロンプトの送受信、情報の検索、ツールの呼び出し、モデルの応答、評価スコア、レイテンシー、トークンの使用量、ユーザーからのフィードバックにいたるまで、モデル周辺の一連の実行経路すべてにこの記録の仕組みを組み込むことを指します。

具体的にRAGアプリケーションを例に挙げると、ユーザーのプロンプトから始まり、検索クエリの生成、抽出されたコンテキスト、プロンプトの構築、モデルの応答、各種評価スコア、処理の遅延、そして発生したコストにいたるまで、システム全体の動きを網羅することになります。エージェントの場合は、プランニング、ツール呼び出し、中間結果、再試行、停止条件も含まれます。

ベースラインとアラートの確立

トレースとメトリクスの収集が始まれば、それを基に品質やパフォーマンスの正常値を示すベースラインを設定できます。対象となる指標は、レイテンシー、コスト、グラウンデッドネス、拒否率、回答の関連性、ドリフトメトリクスなど多岐にわたります。この基準はワークフローごとに異なるため、一律の一般規格を適用するのではなく、個々のタスクの実態に即して個別に策定する必要があります。

アラートの設定は、軽微な数値の変動をすべて拾うのではなく、運用管理上意味のある変化に絞り込むことが重要です。たとえば、より詳細なコンテキストを追加したことに伴うわずかなトークン使用量の増加は想定の範囲内ですが、プロンプトを変更した直後にグラウンデッドネスが急激に低下した場合は、速やかな原因調査が求められます。

フィードバックループの構築

AIオブザーバビリティの本来の目的は、システムの継続的な改善にあります。具体的には、評価結果を分析することで、プロンプトの改定や検索のチューニング、最適なモデルへの変更、ガードレールの最適化、さらにはデータ品質の是正にいたるまで、具体的な改善施策を導き出すことが可能です。また、ユーザーフィードバックは、既存のテストデータにおける網羅性の欠落を特定するのに役立ちます。さらに、トレース分析を実行すれば、エージェントが同一の処理を重複して繰り返している箇所や、不適切なツールを選択しているプロセス、あるいは検索されたコンテキストを正しく処理に反映できていないボトルネックを突き止めることができます。

生成AIの出力品質は旧バージョンとの相対的な比較で評価されるケースが多いため、この改善ループを回し続けるプロセスは極めて重要です。開発チームには、プロンプトの改定やモデルの変更、埋め込み戦略の見直し、あるいは推論パラメーターの設定変更といった施策が、対象のタスクにおいて実際にシステムの精度や応答品質を向上させたかを客観的に検証する仕組みが不可欠です。SnowflakeのAIオブザーバビリティは、LLM、プロンプト、推論構成にわたる評価の並行比較をサポートしているため、チームは構成を本番環境にプロモートする前に応答品質を評価できます。

可能な限りの標準化

社内でAIアプリケーションの導入チームが増えるにつれ、オブザーバビリティの運用は急速に形骸化し、断片化していきがちです。例えば、プロンプトの記録はアプリケーションのデータベースに保存され、コストの推移は特定のダッシュボードで追跡され、評価結果にいたっては個々のノートブック内に埋もれてしまうといった、データの孤立が発生します。テレメトリや評価データセット、メトリクス、そしてトレース形式の標準化は、システム間の横断的な比較や、運用パターンの再利用を推進する上で有効です。

具体的には、テレメトリ層の標準化にはOpenTelemetryが機能し、評価データやアクセス制御、監視記録、トレースの保管といった領域にはガバナンスの効いたデータプラットフォームが威力を発揮します。ここでの最終目標は、すべてのAIアプリケーションに画一的な設計を強制することではありません。真の目的は、本番環境で稼働するすべてのAIシステムに、開発チームが品質を検証および改善していくための十分なデータを確実に残させることにあります。

クイックヒント

開発の初期段階から、実行パスのすべてにテレメトリを実装しておくことが肝要です。プロンプトから情報検索、ツール呼び出し、モデル応答、各種評価スコア、レイテンシー、トークン使用量、そしてユーザーフィードバックにいたる一連のデータを網羅しておくことで、本番環境におけるトラブルシューティング、構成の比較検証、そしてAIガバナンスの遵守に必要な一連の証拠を確保できるようになります。

SnowflakeでAIオブザーバビリティを実現する理由

エンタープライズAIの運用において、回答の生成に用いたソースデータと、その妥当性を評価するための記録は、同一の基盤上で一元管理されていることが鉄則です。ソースデータ、プロンプト、トレース、評価結果、そしてアクセスポリシーがそれぞれ分断されたシステムに散在していると、何か問題が発生するたびに、まず過去の状況の再構築という作業が必要です。どのバージョンが稼働していたのか、どのコンテキストが参照されたのか、どのポリシーが適用され、どの設定が変更されたのかを、バラバラのログから組み立て直さなければならないからです。

Snowflake AIデータクラウド内において、Snowflake Cortex AIはガバナンスの確保されたエンタープライズデータに対する生成AI機能へのアクセスをチームに提供します。また、Snowflake AIオブザーバビリティは生成AIアプリケーションやエージェントの体系的な評価、比較、トレースをサポートします。

オブザーバビリティに優れたAIによる信頼の構築

AIシステムがビジネスプロセスの中核へ深く浸透するほど、その信頼性は、一つひとつの出力に至るパスを組織としてどれだけ正確に検証できるかにかかってきます。トレースや評価スコア、参照されたドキュメント、そしてモデルの設定情報は、開発完了後に残される単なる技術ログなどではありません。これらは、AIシステムが依存するデータやポリシー、ワークフローへの統制を失うことなく、安全かつ確実にシステムを改善し続けるために不可欠な、最も重要な業務記録なのです。

重要なポイント

AIオブザーバビリティの役割は、本番環境で稼働するAIへの信頼を確かなものにすることです。プロンプトや入力データ、検索されたコンテキストをはじめ、各種モデル、ツールの呼び出し、そしてアプリケーションロジックにいたるまで、あらゆる要素がどのように最終的な出力を導き出したかをトレースし、システム全体の挙動を可視化します。

よくある質問

AIオブザーバビリティに関するよくある質問に、Snowflakeのエキスパートが回答します。

モニタリングが異常の検知を行うのに対し、オブザーバビリティは原因の特定を可能にするという違いがあります。AIモニタリングは、設定した閾値を超えた瞬間を捉える役割を担います。

具体的には、レイテンシーの急上昇、コストの高騰、品質スコアの低下、データのドリフトといった異常なシグナルを検知し、即座にアラートを通知します。一方で、AIオブザーバビリティは、その異常の根本原因を深掘りして調査するための仕組みです。プロンプトの内容、検索されたコンテキスト、モデルの応答、ツールの呼び出し履歴など、出力の背後にある一連のプロセスを鮮明に可視化します。

つまり、モニタリングが品質低下を知らせ、オブザーバビリティがその原因を突き止めるという関係性にあります。

3つの柱は、ログ、メトリクス、トレースです。まずログが、プロンプトや検索クエリ、ツール呼び出し、エラーといった個々のイベントを正確に記録します。次にメトリクスが、根拠性や関連性、レイテンシー、コスト、ドリフトといったシステムの品質や性能を数値として測定します。そしてトレースが、情報検索からプロンプト構築、モデル推論にいたるまでのリクエストから応答までの一連の処理経路を繋いで追跡します。

大規模言語モデル(LLM)を活用したアプリケーションに特化し、本番環境での出力品質の評価やトラブルシューティングを可能にする運用の仕組みです。具体的には、ユーザーからのプロンプトやモデルの応答、検索されたコンテキスト、外部ツールの呼び出し履歴を正確に記録します。

さらに、ハルシネーションやグラウンデッドネスの検知シグナル、トークン使用量、処理遅延、発生コストにいたるまで、モデル周辺のあらゆるデータを収集します。これにより、開発チームはなぜその回答が出力されたのかのプロセスを透明化し、システムの継続的な改善に役立てることができます。

入出力データや埋め込み、予測値、そしてパフォーマンスの経時的な変化を継続的に追跡、測定することで、各種ドリフトを検知します。具体的には、入力データの変化を捉えるデータドリフトや、前提条件の変容を示すコンセプトドリフト、出力傾向が変わる予測ドリフト、ベクトルのズレを監視する埋め込みドリフトなどを識別し、それぞれの異常の兆候を捉えます。

さらに、収集されたトレースや評価結果を組み合わせることで、その原因がモデル自体にあるのか、それとも参照データや情報検索層、アプリケーションロジック、あるいはユーザーの利用行動の変化によるものなのかまでを正確に特定することができます。

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