
カスタマーストーリー
三井住友トラスト・アセットマネジメントが AIによるデータ利活用の内製化をSnowflakeで推進 開発期間を圧縮しコストを劇的に削減
「データを整備する」「分析に関わる人材を拡大する」という二つの指標に基づき金融DXを推進。テクノロジーを自らの手で掌握し、コントロールすることを目指す同社の内製化の取り組みから見えてくる成功の秘訣とは
KEY RESULTS:
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フレームワーク開発に必要とした外注費


業種
Financial Services所在地
東京都港区Snowflakeで実現する『データを整える』『分析できる社内の人材を増やす』2つの取り組み
多くの金融機関にとって、金融DXによるサービス品質向上や業務省力化は喫緊の課題だ。三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社は、データを整備する」「分析に関わる人材を拡大する」という二つの指標に基づき金融DXを推進してきた。その中で同社が特に重視してきたのが、内製化という視点である。テクノロジーを自らの手で掌握し、コントロールすることを目指す同社の取り組みは、今後の課題であるAIの利活用において、開発期間とコストの劇的な削減など、大きな役割を果たすことが期待される。
Story Highlights
- フルマネージドサービスによる管理工数の削減
- Cortex AIによるAI開発期間の圧縮とコスト削減
- Snowflakeを基盤としたAIエージェント開発
データ整備と人材教育 二つの取り組みでDXを推進
三井住友トラスト・アセットマネジメントは、三井住友トラストグループ傘下の投資顧問・資産運用会社だ。資産運用残高は約94.2兆円、確定拠出年金(DC)投資信託残高は約2.65兆円でDC専用投資信託残高の約20.2%を占める(共に2024年3月時点)。「私たちは、お客様一人ひとりと歩みをともにし、同じ夢を追い求めながら、未来に託す思いにこたえる資産運用の新しいカタチを追求していきます。」というミッション実現に大きく貢献してきたのは、多様な専門性と実績を持つ社内のプロフェッショナルたちだ。役職員数680名中、ファンドマネージャーは130名で、その平均経験年数は約16.3年。アナリストは50名、社内の証券アナリスト資格保持者は254名に及ぶ(2024年3月末時点)。
金融DXは多くの金融機関が直面する重要な課題の一つである。こうした状況下、同社は「データ整備」と「分析できる人材の拡大」という二つの観点からDXを推進している。その理由について、リサーチ運用部 執行役員データサイエンスユニット長の松本 宗寿氏は次のように説明する。
「経産省が取りまとめた『デジタルガバナンス・コード』では、DXをデータ・デジタル技術を活用し、ビジネスモデルの変革や競争上の優位を確立する方策と位置づけています。DXは作業工数の削減といった定量的な効果が注目されがちですが、それは結果に過ぎません。真の意味でのDX実現に向けた取り組みをどのように組織のメトリクスに落とし込むべきか検討する中で、『データを整える』『分析できる社内の人材を増やす』という二つの指標が重要だと考えました」
データ活用をレバレッジとし、システム開発の内製化を推進
その実現に向けて、強く意識したのは内製化という観点だった。
「データ利活用の促進において、内製化は非常に重要だと考えています。職員が自らデータを分析できる環境を整えることは、ロジカルなデータ活用に貢献します。それはシステム開発も同様です。これまで多くの金融機関では、新たなシステム開発にあたりコーディングを外部に委託してきました。しかし今回のSnowflakeを軸としたデータ分析基盤構築では、基本的にコーディングは内製で行っています。もちろん、外資系金融機関でシステム構築を手掛けた実績を持つ方をコンサルタントとしてお招きし、開発をリードしていただいてもいます」
人材教育の観点から同社が取り組むのは、ユーザー支援を組織的に行うサポートチームの整備だ。その役割は大きく三つある。一つは、手厚い教育によるユーザー支援。二つ目が、即座に分析に利活用できるデータを整備すること。そして最後が、フレームワークや共通ライブラリの整備を通して、ユーザー自身によるシステム開発を支援することだ。
データ利活用に向け、教育やデータ整備に力を入れるケースは珍しくない。しかし、ユーザー自身によるソフトウェア開発まで視野に入れ、開発環境の整備に取り組むケースは多くない。その狙いを松本氏はこう説明する。
「私自身のこれまでの経験から、ロジカルな領域にのみ焦点を当てた開発が可能な環境では、ユーザーによるシステム開発が急速に進むことは明らかでした。今回強く意識したのは、ライブラリやフレームワークを提供することで、ソフトウェアの下層レイヤーを意識することなくシステム開発を行える環境を提供することでした」
一方、データ分析基盤の構築は、「統制の効いた開発」「クラウドネイティブ」「脱ローカル環境」「AIサポート」という四つの価値基準に基づいて行われた。
「まず考えたのは、内製化に伴う混乱は避けたいという点でした。そのため、開発を統制する仕組みは不可欠です。また当社を含め、多くの金融機関がクラウドのメリットを十分に活用できていない状況が続いている中、クラウドネイティブによるトータルコスト削減も強く意識した点の一つです。マネージドサービス活用による運用コスト削減に積極的に取り組んでいきたいと考えていました。さらに、ローカル環境に依存する従来の環境では、OSアップグレードへの対応などにコストが生じていました。新環境では、こうした課題も解消したいと考えました。最後に、生成AIの活用です。コーディング内製化も含め、今後、生成AIが当社の金融DXに大きな役割を果たすことは間違いないと考えています」

「当社では、同様のRAGに関するフレームワーク開発を他システムインテグレーターに依頼した場合と比較したところ、今回の開発で私たちが外部に支払ったのは、Snowflakeへのコンサルティング料のみの1/10以下でした。新たなテクノロジーを自らの手で掌握し、コントロールできること、そして内製化の重要性を改めて実感した結果です」
松本 宗寿氏
AI対応をスムーズに進めた「シンプル・イズ・ベスト」の価値観に
これらの価値基準に基づき検討を進めた結果、同社はSnowflakeを中軸とするデータ分析基盤を選んだ。
「Snowflakeを選択した最大の理由は、フルマネージドサービスである点です。開発環境にはGitHubを標準採用し、AWSのコンテナを最大限に活用することでOSの影響を最小限に抑えています。さらに、データ分析環境をメインシステムの稼働環境から分離したことも重要なポイントです。データ運用の冗長化はサイバーセキュリティの観点からも有効ですが、社内での合意形成においても環境の分離が大きな役割を果たしました。通常、データ分析環境を新たに構築する場合には情報システム部門との調整が必要となりますが、メインシステムの稼働環境と分析環境を切り分けることで、その手続きを大幅に簡略化できました」
極力シンプルな仕組みを心掛けた点も、注目すべきポイントの一つだ。
「システム構築において常に大切にしてきたのは、目の前の要件を可能な限りシンプルに満たすことです。現時点で不要な汎用性を持たせないことが、結果として拡張性の高いシステムにつながると考えています。今回のプロジェクトがスタートしたのは2年前ですが、当時は生成AIの活用は全く想定していませんでした。それでも生成AIへの対応がスムーズに進んだ理由の一つは、常にシンプルさを意識したシステム開発にあると確信しています」
生成AIを利用したソフトウェアの開発期間の圧縮とコストを大幅に削減
三井住友トラスト・アセットマネジメントが現在注力しているのは、RAG(検索拡張生成)による、より信頼性の高い生成AIの活用だ。
「現在は、文書の要約や抽出といったAIの基本的な機能に関して、Snowflakeの協力を得ながらユースケースの検討を進めている段階です。各社が発表した決算資料に基づき、生成AIがユーザーの質問に答えるチャットボットはその一例です。シンプルな仕組みではありますが、SnowflakeのCortex AIを活用することで、わずか2、3日で実装できました」
今回のデータ分析基盤構築において重視したのは、使いやすいプラットフォームの選定とデータのシンプル化だ。そして、内製化のためには人への投資とAI活用が不可欠であると考えた。これらの取り組みを実行した結果、内製化のメリットを最大限に引き出すことができ、開発スピードが向上し、結果としてコスト削減にも繋がった。
「当社では、同様のRAGに関するフレームワーク開発を他システムインテグレーターに依頼した場合と比較したところ、今回の開発で私たちが外部に支払ったのは、Snowflakeへのコンサルティング料のみの1/10以下でした。新たなテクノロジーを自らの手で掌握し、コントロールできること、そして内製化の重要性を改めて実感した結果です」
今後、同社は大きく二つの領域で生成AIの活用を予定している。一つは、投資判断への生成AIの活用である。
「企業業績の予想は、各種指標との相関関係に着目した仮説に基づいて行われるのが一般的です。これまで演繹的に行われてきた仮説構築に、生成AIが大きな役割を果たすと考えています。また、仮説構築やその検証には膨大なコンピューティングリソースが必要となりますが、この点でクラウドの強みが活かせるはずです」
もう一つは、オペレーションへの活用だ。
「先ほどご紹介したチャットボットは、プロンプトエンジニアリングなどを経てAPI化する予定です。その次のステップとして考えているのが、API化された生成AIをどのタイミングで利用するかを判断するAIエージェントの開発です。チャットボットの例では、企業の統合報告書が発表されたタイミングで必要な情報を抽出し、次のステップを指示するという役割を担うことになります。取り組みはまだ始まったばかりですが、一つひとつ着実に実現していきたいと考えています」
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