注:本記事は(2022年1月13日)に公開された(The Next Great Loyalty Program Is an Ecosystem)を翻訳して公開したものです。

データが販売によって生じる単なる副産物ではなくリソースであることに気付いた企業は、顧客に対し、無料の製品、割引、返金、また会員制のような排他的なメリットといった付加価値の提供を始めました。このような取り組みは、Starbucks RewardsやMyapaneraのような物理的なカードでよく見られる顧客ロイヤルティプログラムを通じて以前から行われてきたことであり、現在も実施されています。しかし、巨大企業では、このようなロイヤルティへの取り組みが変化しています。

各社は、単なるロイヤルティプログラムの代わりに、製品の種類を超えて拡大したロイヤルティエコシステムを構築しています。中心となる製品(コーヒーなど)や少数の関連ブランドの提供品(コーヒーミルやマグカップなど)を取り上げるのではなく、巨大企業は、豚ロース肉からレーシング用タイヤ、またソフトウェアまで、複数の業界に広がる根本的にまったく異なるタイプの製品を提供しています。コンサルティング会社のMcKinseyは、このようなエコシステムが次世代のロイヤルティプログラムになる、と予測しています。

このようなプログラムにおいては、企業規模により制度の本質や価値が変わり、顧客が受け取るメリットのレベルも変わります。規模が小さく、AmazonやWalmartの影響を受けていない企業(もちろんほとんどが該当します)にとって明らかな課題となっています。こういった小規模組織が顧客ロイヤルティを獲得するにはどうしたらよいでしょうか。また、プライバシーにますます神経をとがらせている顧客ベースの気持ちを離れさせることなくこれらを実施するにはどうしたらよいでしょう。

答えは、データと同盟です。

ロイヤルティ構築ツールとしてのデータ

Canadian Tireはカナダにおける比較的大きな小売業者の1つですが、Amazonのような巨大企業と比較するとはるかに及ばない規模です。では、同社が講じたAmazonのような巨大企業への対抗策とはどのようなものだったのでしょうか。Canadian Tireは顧客ロイヤルティ獲得に向けたリーチの拡張にデータを活用しており、実際、データマスターと呼ばれる会社になりました。

Snowflake Summitでは、Canadian Tireのマーチャンダイズアナリティクス担当マネージャーであるIaro Boutorin氏が、顧客ニーズに対応するために同社がどのようにデータを活用したか、また、マーチャンダイジング、サプライチェーン、eコマースといった部署にまたがる4,500人の従業員が、どのようにして毎月75,000件の質問に回答していたのか、について語ってくれました。Canadian TireにおけるThoughtSpotの消費者グレードアナリティクスを使用した全従業員によるデータクラウドの活用法

Boutorin氏は、バックエンドから顧客レイヤーに至るすべてで運用される、統合されたデータスタックをいかにして構築したかを説明してくれました。Canadian TireはアナリティクスツールであるThoughtSpotとSnowflakeを接続し、ライブデータのクエリ、ワークシートの構築(検索用にデータをモデリングするための軽量のメタデータレイヤー)、さらにThoughtSpot Modeling Languageによるビジネスデータモデルの管理を行っています。

Boutorin氏は次のように語っています。「当社は、世界中にある多数のオフィス間で絶えずクエリが行われている豊富なロイヤルティ情報を保有しており、集約的なデータマートを生み出しています。」もし同社がこれらの作業を人間にやらせていたら、Amazonのようなオールインワンですべてを実施できる企業に対抗するのは無理だったでしょう。

同氏は次のように続けました。「素晴らしい点は、(データが消費者レイヤーにあったとしても)引き続き、ユーザーに驚きと喜びを与え、精度の高いインサイトを得ることができることです。」これらのインサイトによりCanadian Tireは、顧客や将来的な見込み客に対し、心に響くニーズやウォンツに基づいた対応を実施できているのです。

他者との連携

企業が顧客への影響力を拡大するための、よく知られている効果的な方法の1つがロイヤルティ企業との契約です。前述したデータの価値のおかげでロイヤルティの重要性は非常に高く、そのため、ある企業の単独での能力が他の企業による顧客へのリーチに役立つことがあります。 

Snowflakeのリテール、CPG GTM担当グローバル責任者であるRosemary Huaは次のように語っています。「今日、ロイヤルティ企業はサードパーティデータを取り込んで顧客情報のエンリッチ化を行い、小売業者に売り戻しています。」このサードパーティデータは企業が自由に使えるノウハウのエンリッチ化を行います。しかし、統合されたロイヤルティエコシステムの普及が進んでいるのには別の理由があります。それは、会社に対してではなく、顧客に対してもたらされる価値です。

Huaは次のように説明しています。「人々は、増え続けるアカウントに嫌気がさしています。ある顧客は、小売店舗、スーパー、さらにアパレル店のすべてのロイヤルティプログラムにアカウントを持っています。けれども顧客本人としてはシームレスな買い物を望んでおり、何かを購入するたびに電話番号やパスワードの入力を求められたり、ロイヤルティ情報の入力を求められたりするのは嫌だと思っています。」

この状況の解決例が北米企業のLoyaltyOneです。同社は、さまざまな航空会社のマイルやガソリンスタンドのロイヤルティプログラムを統合するサービスを提供しています。このサービスの使用により、企業間でロイヤルティ情報を共有でき、顧客が受けるメリットも共同で提供することができます。

Huaによると、顧客が自身の注文履歴やトラッキング情報を確認したいとき、多くの企業がまずログインすることを要求する、と言います。「これは、ブランドや小売業者が顧客のロイヤルティをトラッキングする新たな方法として確立されつつあります。そのため、現行のプログラムに加えて、新たなロイヤルティプログラムを追加する必要がなくなります。」

プライバシーの徹底により信頼が生まれ、信頼に応えることでロイヤルティが生まれる

Huaはプライバシーやデータ倫理について、今「最も熱いトピック」と説明しています。消費者は価値を望んでいるかもしれませんが、プライバシーを引き換えにすることはありません。FacebookやGoogleといった企業は、消費者のこのような懸念に「オプトアウト」という形で応えています。

Huaは次のように続けています。「ですが、『オプトイン』を選択しないことは本当に可能でしょうか。あまり選択肢はないように思えます。登録せずにメールやパスワードといった個人情報の提供を拒否すると、荷物の配達日時も把握できなくなります。試しに購入した商品が気に入らず、返金を望んでも、あなたの行動や購入の追跡を可能にする個人情報を提供せずに返金を受け取ることは不可能です。」

これまで述べたように、顧客ロイヤルティを生み出すためにどの企業も採用できる単一のソリューションなどありません。同じ業界、または多種の業界に有意義なエコシステム構築に向けて提携できそうな企業は存在するでしょうか。ロイヤルティプログラムにより顧客に提供する最重要点は単なる遊び心ですか、それともデータ提供の対価としての実用的なものでしょうか。

それぞれの組織が、自社が保有するデータについて、より多くのデータを得るために提供できる価値について、また顧客との信頼関係の構築には必要なものについて、さらに、同盟や規制がこれらの回答にどれだけ影響するかについて検討する必要があります。