注:本記事は(2022年6月8日)に公開された(How to Deliver a Customer-Centric Banking and Insurance Experience with Data)を翻訳して公開したものです。

取引決定時のリアルタイムの価格設定データからポートフォリオ構築の際の企業ファンダメンタルズや、保険引受に情報を提供する人口統計データなど、いつの時代もデータは金融サービス業界を支えてきました。市場イベントは市場データによってキャプチャされ、その後それらのデータは金融サービスの専門家によって実行可能なインサイトや事業意思決定へと変換されます。

いっぽう、銀行や保険会社が差別化を図ろうとする中で、多くの企業が顧客および顧客のニーズの理解を深めることを目指しており、顧客に関するより深いインサイトを活用するための戦略作りに取り組んでいます。金融機関各社は、メディアや小売業を中心とした他の業界がテクノロジーを導入し、顧客の行動、ライフスタイルの選択、インタラクションに関するより詳しい視点を通じて迅速にイノベーションを行っているのを目にしています。それらのメディアや小売事業者は、顧客のデータポイントを詳細にキャプチャし、そのデータを分析、調査して、ビジネス、製品、マーケティングの意思決定に情報を提供しています。オンラインインタラクションによるデータの爆発的な増加により、小売業者は、より優れたパーソナライズ、モビリティオプション、オンラインインターフェイスを備えた1つのシームレスな統合ショッピングエクスペリエンスで製品やサービスにアクセスする機能を顧客に提供することに取り組んでいます。いっぽうリテールバンキングと保険セクターは現在、顧客がこれと同様のレベルのデジタルカスタマーエクスペリエンスを自社に期待する中でそれに応える方法で事業運営しなければならないという課題に直面しています。実際、MXによる2021年のレポートでは、「70%近くの消費者が、Netflix、Amazon、他のテクノロジー企業と同様のパーソナライズされたお勧めを伴うエクスペリエンスの提供を銀行に求めている」という結果が出ています。

多くの金融サービス組織にとって、こうした期待に応えることはビジネスの回復力と長期的な成長ニーズにおいて不可欠なものです。2008年の金融危機以来、金融サービス業界に対する国民の認識と信頼は一貫して低くなっています。社会的・文化的なものの見方が劇的に変化した現代において、パワーバランスは顧客側に大きく傾いています。お金の使い方や投資の方法を自己決定することの意識が広まる中、組織は顧客の新しい動態や、エンゲージメントにセルフサービスモデルが好まれるという状況を反映した事業運営に移行しなければなりません。金融機関はサービスを強化し、より便利でスピーディでパーソナライズされたサービスを提供する新しい方法の採用を迫られていますが、多くの金融サービス組織はこのように変化する顧客の要求に応えることができておらず、カスタマーエクスペリエンスが逆に悪化してしまうという事態が起こっています。

このような顧客の期待の変化に加えて、継続的な規制による圧力、新しい競合財務テクノロジー(FinTech)の脅威、上昇するコストといった金融危機後から業界全体が直面している体系的な変化の結果、銀行は顧客に対して長期的な価値を創出し維持する方法を再評価する必要に迫られています。簡単に言えば、初めての銀行口座の開設や生命保険の加入、マイホームの購入、デジタル資産の取引、投資ポートフォリオの管理に関する財務アドバイスの取得に至るまで、金融サービスは顧客を育成し、その生涯価値を高めるのです。

しかし、銀行や保険会社が顧客のターゲティング、獲得、エンゲージメント、維持に関してより効率的なアプローチをとるには、まずデータを集約してテクノロジースタックに投資し、組織全体で顧客を理解するためのより包括的なアプローチの構築に向けて方向転換する必要があります。

時代にそぐわない環境による負担

多くの銀行や保険会社では、何年にもわたる有機的および非有機的投資、構築、買収合併の積み重ねの結果、サイロ化された重複するテクノロジーアーキテクチャ、競合するさまざまなコンテンツストア、データモデル、複数の異なるレベルのガバナンス、認証、データアクセス制御が形成されています。

これは、従来の金融サービス組織が以下のような問題に直面することを意味します。

  • データアクセスの問題と、ビジネスに不可欠なデータを組織全体とサードパーティからまとめる能力の不足
  • レディネスの度合いが異なるサードパーティデータの特定と取り込みにチームが集中する結果、データパイプラインが長くなり、データ速度の問題が生じる
  • データのコピーや複数のバージョンの存在により、一貫性の欠如とエラーのリスクが増加してしまうというデータバージョニングの問題が発生する
  • データ所有権の課題により誰がどのデータに何の目的でアクセスできるのかに制限が生じ、結果としてコスト面およびコンプライアンス面での問題が増加する

地方銀行の合併(SunTrustとBB&TによるTruistの誕生)や銀行による証券会社の買収(モーガンスタンレーとEトレード)など、業界の統合が進む中、今後もこうしたデータやテクノロジーに関する課題が継続する可能性は高いと思われます。

とくに大手の銀行や保険プロバイダーの場合、こうした状況は、ビジネス全体から顧客データを集約するのにリソース使用率の高いもしくは高コストなデータの複製が必要になるため、顧客とそのニーズに関する視点に一貫性がなくなったり不完全になることを意味します。さらに、ネクストベストアクションや製品の適合性といった顧客のインサイトや分析を取得する遅れにも繋がります。ファイナンシャルアドバイザー、支店長、保険ブローカーにとって、このように適切な商品を適切な顧客に正確に販売できずにいることは最終的に収益に悪影響を与えます。

さらに重要なことに、規制の厳しい業界にある金融サービス組織は、顧客データおよびその他の個人情報(PII)にアクセスして共有する際に強力なデータガバナンスとセキュリティ制御が整備されていないと、規制、評判、財務上の潜在的なリスクに直面します。

Customer360のプロセスをデータクラウドに移行する

上述の課題をできるだけ解決するため、金融サービス組織は、Snowflakeと金融サービスデータクラウドに目を向け、効率を高め、複雑さを軽減し、一元化された顧客データプラットフォームを作成し、リアルタイムでイベントドリブンなクラウドベースの顧客データプロセスを確立しようとしています。これらはすべて、データコラボレーション、エンリッチメント、セキュリティ機能によって支えられています。

データコラボレーション

単一のデータプラットフォームとしての金融サービスデータクラウドの導入により、組織はデータ集約型で高度に管理され活競争力のある環境を構築できます。これは、さまざまな事業分野、ベンダー、パートナーにまたがるデータとテクノロジーのサイロ化を解消し、マーケティングや顧客のセグメンテーションから予測分析やネクストベストアクションまで、さまざまなワークフローを可能にすることを意味します。SnowflakeはETLを削除し、ほぼ瞬時にデータにアクセスして配布できるようにします。

こうした共有とコラボレーションは、クラウドではなくあくまでデータそのものを中心とした堅牢なクロスクラウドガバナンス制御とポリシーによって支えられています。ポリシーは一貫して実施され、大規模なガバナンスを簡素化し、リスクを軽減し、機密データや規制されたデータからも価値を引き出します。

データの強化

先ほども述べたように、データは金融サービス業界を支えています。 Snowflakeを使用すれば、データへのアクセスとデータの共同作業が驚くほど簡単になります。 Snowflakeデータマーケットプレイスには、FactSet、S&P Global、Experian、ZoomInfo、Foursquareなどの業界をリードするデータプロバイダーからの1,000を超えるデータセットが格納されています。

これらのデータセットは以下のようなユースケースを可能にします。

Snowflakeデータマーケットプレイスは、低ETLまたはゼロETLのデータアクセスを実現し、ユーザーの試行・発見・購入エクスペリエンスを再定義します。何より重要なのは、迅速かつシームレスに社内のファーストパーティデータを強化し、差別化された新しいカスタマーインサイトを作成できるようになります。

データセキュリティ

さまざまなチーム、事業部門、パートナー、ベンダー間で的確に機密データを活用するのは簡単ではありません。データプライバシー法やコンプライアンスの懸念によって共有できるものが限られるため、金融サービス組織でのインサイト生成、コラボレーション、リスク管理の方法にも影響が及んでいます。

顧客データへのアクセスとクエリに関して言えば、Financial ServicesDataCloudのコアコンポーネントとなるのはデータセキュリティです。Snowflakeは、転送中および保存中のデータの動的データマスキングやエンドツーエンド暗号化などの機能に加えてデータクリーンルーム機能も提供します。

データクリーンルームは金融サービス業界ではまだ新しい概念ですが、テクノロジー、メディア、広告などの他の業界ではすでに広く普及しています。データクリーンルームは、組織が社内の事業部門やチーム全体で、さらには社外のサードパーティからも安全に顧客データを集約できるようにする機能です。データクリーンルームは、データシェアリング、ダブルブラインド結合、制限されたクエリを可能にし、さまざまな組織が互いに基盤データを公開することなく顧客データを共有および照合できるようにします。

これにより、組織は独自のデータやサードパーティデータを安全な方法で集約、活用してカスタマーインサイトを強化できます。大手メディア企業の広告部門がSnowflakeのデータクリーンルームを活用して自社ブランドのポートフォリオ全体でスケーラブルなターゲティングと顧客分析を構築した例をご覧ください。

金融サービス組織は、以下を行えるようになります。

  • 社内の複数の事業部門で、または他の銀行、支払い処理業者、データプロバイダーなどの金融サービスパートナー、さらには小売、テクノロジー、広告などの他の業界の組織と連携する
  • 組織の外部と顧客データを共有、照合する
  • クエリリクエストを検証し、機械学習を組み込んで顧客の予測分析を行う
  • パートナーシップ戦略、マーケティングイニシアチブ、クロスセルとアップセルの機会、ネクストベストアクションのインサイトを構築する

金融サービス組織がデータコラボレーション、データエンリッチメント、データコラボレーションの課題に対処できれば、Customer360ワークロードに必要なプロセスとステップの構築に着手できます。

一般的に、さまざまな組織が次の6つのステップに焦点を当てているようです。

  1. マッピング、マッチング、モデリング – 顧客およびそれに関連するすべてのデータを特定して理解します。これには、データ分類方法、主なデータ主題領域、論理データモデルを組織が定義する必要があります。
  2. 集約 – 単一ソースのデータリネ―ジに基づいて、顧客データを単一の顧客プロファイルに統合します。アカウント、トランザクション、参照データなどのすべてのタイプのデータがマスターデータレポジトリで一元管理されます。
  3. 合体 – ビジネスプロセスによって使用または提供されるデータの定義とルールを管理するドメイン所有者を確立します。
  4. データインサイト – インサイトの導出によりプロセスを自動化および最適化します。これには、AIとMLの活用も含まれます。
  5. データの共有とエンリッチメント – 組織全体の他のデータドメイン、サードパーティのデータプロバイダー、パートナーからの顧客データを強化します。
  6. アクション – コラボレーションを推奨するデータドリブンな文化を構築し、組織内のサイロ化を解消します。

金融サービスデータクラウドでは、Snowflakeは金融サービス組織と提携し、これらのステップを企業レベルで効率化します。データエンジニアリング、データウェアハウス、データレイク、データサイエンス、データアプリケーション、データシェアリングといったSnowflakeの各コアワークロードを活用することで、SnowflakeユーザーはCustomer360の要件を満たすことができます。

Western Unionは、Snowflakeの支援により30以上のデータストアの統合とリソース競合の排除に成功し、同社のビジネスリーダーは顧客に関するより包括的なビューを取得できるようになりました。

世界中に55万か所のエージェント拠点を持つWestern Unionは、1億5,000万人以上の人々と企業が送金と受け取りを行うためのサービスを提供しています。消費者のオンライン化に伴いWestern Unionはデジタル送金サービスを成長させ、その結果デジタル送金事業は同社の最も急成長する事業分野になりました。これにより、大量の顧客データとトランザクションデータが、複数のオンプレミスデータウェアハウスを含むレガシーデータアーキテクチャに送られることになりました。

Western UnionのデータエンジニアリングサポートオペレーションのリーダーであるDeepak Murthyは、「複数の異なる取り込みプロセスが存在するために、大量のデータが最大5回にわたりコピーされ、データに不統一が生じたり、データセットにミスマッチが出たりすることがあり、その結果、ユーザーへのサービス提供、年中無休の稼働期間、メンテナンス、Customer360インサイトの作成が非常に困難な状況になりました」と語ります。

そこでSnowflakeはWestern Unionと提携して、リソースの競合なしにWestern Unionのデータ、ユーザー、ワークロードを処理できるよう、即座に拡張可能なマルチクラスター共有データアーキテクチャによりWestern Unionのテクノロジースタックを最新化しました。これにより、同社のデータウェアハウスのコストを50%下げることに成功しました。さらに、Snowflakeと他のサードパーティアプリケーションやワークフローツールの統合によって、同社のビジネスリーダーらはトランザクションボリューム、カスタマーインサイト、および販売やマーケティングのイニシアチブに直接影響を及ぼす他の各種分析に関するレポートをほぼリアルタイムで作成できるようになりました。

最も重要なステップ

ここまでで、金融サービス組織がCustomer360に関するアプローチを構築する際に考慮すべき6つのステップについて書きましたが、それに加えておそらく最も重要なステップがもう1つあります。それは、長期的なビジョンを持つことです。

組織的制約とコストの制約がある中で、現在多くの組織による顧客データの捉え方は、十分ではないかもしくは限られています。しかし顧客データの集約、統合、一元化は最低限事業運営に必要なものであり、長期的なビジネスニーズを評価する能力や、将来的なデータ要件をキャプチャする能力がなければ、金融サービス組織は今後のデータ機会を逸失する可能性があります。

Snowflakeと提携した時、Western Unionはデジタル送金サービスを大幅に拡大して多くの投資を行っていました。モバイルアプリケーションとオンラインポータルと通じて従来の実店舗のビジネスチャネルよりもはるかに多くの顧客を獲得できましたが、それと同時に大量のトランザクションデータが発生しました。Snowflakeデータクラウドを使用することで、同社はそれらの顧客データをより迅速に把握し、モビライズし、実用的なインサイトに変換することができました。

データが金融サービスを支えているのは間違いありません。しかし、最終的に組織が持つデータを、例えばWestern Unionのような高度にパーソナライズされたカスタマーエクスペリエンスなどの真の差別化要因に変換するのは、長期的なビジネス戦略とビジョンであると言っても過言ではありません。