
資産運用業界のデータ管理を変革Snowflakeで実現する機関投資家向けデータマネジメントサービス
MUFGグループの日本マスタートラスト信託銀行は、機関投資家や資産運用会社の資産管理を担う。顧客に代わり複数のデータソースから情報を収集・標準化し、一元化したデータを提供する「データマネジメントサービス(DMS)」をSnowflakeを基盤に立ち上げ、顧客が分析と判断に集中できる環境を目指す。
50%スクラッチ開発と比較した構築期間の短縮試算
約85%ランニングコストの削減試算


業種
金融サービス所在地
Tokyo, Japan資産管理のプロフェッショナルが挑む 機関投資家のデータ利活用を支える新サービスの構想
MUFGグループの日本マスタートラスト信託銀行は、資産管理に特化した信託銀行として、機関投資家や資産運用会社の資産を管理し、関連業務を受託している。同社が新たに立ち上げるのが、顧客に代わって複数のデータソースから情報を収集・標準化し、一元化したデータを提供する「データマネジメントサービス(DMS)」だ。資産運用の高度化やガバナンス強化が求められる中、顧客社内では一元的なデータ管理やデータガバナンス確立のニーズが高まっている。同社はSnowflakeを基盤に、顧客が分析と判断に集中できる環境を目指す。
このストーリーのハイライト
- 長年の資産管理業務の知見とITソリューションを融合した総合データサービスを構築
- 顧客ごとに独立した環境を構築し、高い機密性と安定稼働を両立する設計を採用
- データシェアを活用し共通領域から顧客環境へデータを柔軟かつスピーディーに配布
増え続けるデータと向き合う 資産運用の現場が抱えていた構造的な課題
円安・株高等を背景に、家計の金融資産が2,000兆円を超え、「貯蓄から投資」の流れが加速し、また、伝統的資産にとどまらず、オルタナティブ資産やデリバティブ資産といった非伝統資産への投資も広がりつつある。一方、当局から資産運用高度化に向けた運用ガバナンス強化・インフラ整備・DX等への取り組みが求められている。こうした環境下において、日本マスタートラスト信託銀行は、機関投資家や資産運用会社へ資産管理サービスを提供する中、彼らが抱える共通の悩みを数多く受け止めてきた。
クライアントサービス部 プロダクト営業グループ マネージャーの高澤 洸氏は、顧客社内のデータ管理の課題をこう語る。
「お客様の課題の粒度はデータ管理体制状況に応じて異なり、非定型・非構造の世界であるオルタナティブ資産を一例に、データの散在・不整合により十分にデータ利活用ができていない、社内外のシステムが接続されておらず効率的かつ堅確的にデータ利活用ができていない、運用戦略企画・立案に有効活用したいといったお声を、数多く頂戴していました。資産運用高度化が求められる一方で、社内のデータ管理・利活用体制がそれに追いついていないという課題は、多くのお客様に共通していました」
資産運用高度化が進むなかで、その基盤を支えるミドル・バック部門を担う人材やITリテラシーを持つ人材の確保も、各社の喫緊の課題となっていたのだ。
同社自身が顧客に提供してきたデータも、課題と無縁ではなかった。業務企画部 アーキテクチャ戦略室でデータマネジメントサービスの企画・開発を担当するマネージャーの野尻 伸氏は、当時の構造をこう振り返る。
「お客様からお預かりした資産に関する情報は、信託帳票や情報開示サービスを通してご提供します。現状は当社から一方通行でのご提供であるため、その先でお客様が有価証券運用報告書作成などの後続業務をどのように進められているのかが見えにくく、データを取り巻く真のニーズを捉えることが難しい状況でした」
世界に目を向ければ、グローバルカストディアンはデータマネジメントへの取り組みを先行させており、同社はこうした潮流を踏まえ、長年の資産管理業務で培った知見を生かすことで、単なるシステムパッケージの提供にとどまらず、データの中身まで踏み込み、顧客のデータ利活用まで支援する総合的なデータソリューションを提供できるのではないかと考えた。そうした問題意識が、新サービスを構想する出発点となった。
「資産運用高度化へ寄与できるサービスをご提供しつつ、資産管理に関する真のビジネスパートナーになっていきたい。データ基盤のご提供にとどまらず、多くの機関投資家や運用会社を横断的に見ているからこそ得られる多角的な視点を、お客様に還元していきたいと考えています」
高澤 洸 氏
Snowflakeという選択 機動力とデータシェアが描いた青写真
新サービスの構想を進めるなかで、同社はデータ基盤として複数の選択肢を比較検討した。すでに同社ではSnowflakeを利用していたが、新たなサービス構築にあたり改めて他の手法も含めて評価を行い、最終的にSnowflakeを基盤に据えることを決めた。決め手の一つは、SaaSとして提供されることによる構築・運用負荷の低さだった。野尻氏は試算をこう説明する。
「システム化企画時の概算ですが、専用のクラウドサーバーを立ち上げてスクラッチで開発するのに比べても半分くらいの費用・期間で構築できますし、ランニングコストも、80%以上は安いという試算でした。また、サービスの拡大を見据えた拡張性も魅力でした。お客様ごとに専用環境を提供するのですが、環境構築期間もスクラッチと比較して30%程度短縮できる見込みです」
機能面で核になると見込まれたのが、データシェアの仕組みである。複数の顧客が利用することを想定したとき、顧客ごとのデータの機密性を確保しつつ、共通処理は迅速にこなしたい。そこで、共通領域で作成したデータを各顧客の環境へ配布するアーキテクチャを採り、データシェアを活用する構成とした。野尻氏は「共通アカウントで主要なデータ処理を行い、データシェアの仕組みを使ってお客様のアカウントに配布していく。データシェアがあるのとないのとでは、効率性がかなり違うと感じています」と語る。将来的にデータベンダーからリアルタイムでデータを受け取る場面でも、ファイル転送ではなくデータシェアを使える点が大きいと見込む。
アーキテクチャの基本方針は、社内の処理環境と顧客が利用する各サービス環境を、相互に影響を受けない独立した環境として構築することだ。インプットされたデータは共通の環境で加工・振り分けを行い、顧客ごとの環境へと分かれていく。この設計により、機密性と安定稼働の両立を図る。セキュリティ面では、脆弱性情報の適時提供や常時監視といったSaaSの標準機能を、社内のセキュリティ規定への適合を確認した上で最大限に活用する方針を採った。野尻氏は「セキュリティを担保しつつ運用コストの低減を図るうえで、大きく貢献いただいていると考えています」と話す。画面についても、必要に応じてStreamlit in Snowflakeを用い、データの状態を監視する画面など、サービス提供に必要な画面を自社で開発している。
本格稼働を前に高まる期待 「あるべき姿」へ段階的に近づく構想
同社が描くのは、顧客のデータ管理体制の状況に応じて段階的に価値を提供していく姿だ。高澤氏は、顧客を整備状況に応じて大きく三つの段階に分けて捉えている。データが社内に散在している段階の顧客には、提供データの項目定義や形式を標準化し、有価証券の名称などの単位で比較が容易になる状態を実現する。レポーティングや有価証券運用報告書作成に向けた整備によって、ある程度自動化されていく姿が、まず求められると見ている。
整備が進んだ次の段階では、外部との接続が焦点になる。データ連携の自動化が進めば、取引・残高データ等をリアルタイムで連携し、資産運用高度化につなげていくことができる。さらに高度化が進めば、データを用いて運用の意思決定までをサービス上で行っていく姿も視野に入る。野尻氏は「フロント、ミドル、バックといった部門ごとのデータ管理から、横断的にデータを管理していく段階へと、求められる水準が上がっていく」と展望する。また、インターフェースは顧客のデータ管理体制の状況に応じて柔軟に用意し、初期段階では使い慣れた形式での提供から始め、レベルアップに応じて分析ツールなどを活用した提供へと広げていく方針だ。
データの種類と顧客を増やし、業界全体のデータ利活用を底上げする
サービスローンチの先に、同社が見据えるのはデータの種類と利用顧客を着実に増やしていくことだ。野尻氏は「収録するデータが増え、お客様にお使いいただく機会が増えると、どんなデータがより使われているのか、どう標準化して提供すればお客様や業界全般にとって最も良いのかが具体的に見えてくる」と語る。まず整備段階の顧客に向けて散在するデータを集めて提供し、それが広がるにつれて業界横断や顧客内での標準を考えられるようにしていく。収録データと利用顧客を増やすことが、最初の重要な一歩となる。
次の方向性が、リアルタイム化と自動化だ。外部のデータベンダーからデータシェアでリアルタイムにデータを受け取り、顧客のシステムへもリアルタイムで流し込めるようにすることで、扱えるデータの幅と鮮度を飛躍的に高めていく。その先に、分析ツールやAIといった活用機能の拡充も見据える。野尻氏は「AI活用のためには、その裏側のデータの品質を向上させることが不可欠であり、今回の取り組みはその一歩として位置づけられる」と話す。
高澤氏は、サービスを起点に顧客とより密な関係を築いていきたいと語る。
「資産運用高度化へ寄与できるサービスをご提供しつつ、資産管理に関する真のビジネスパートナーになっていきたい。データ基盤のご提供にとどまらず、多くの機関投資家や運用会社を横断的に見ているからこそ得られる多角的な視点を、お客様に還元していきたいと考えています」
資産運用業界全体のデータ利活用の水準を引き上げ、デファクトスタンダードを築いていく。その構想の実現に向けて、Snowflakeを基盤とした取り組みが今、本格的に動き始めている。

約85%
ランニングコストの削減試算

