2021年2月、猛烈な冬の嵐、Uri(ウリ)1がテキサスを襲い、州の全システムをダウンさせました。州の電力グリッドに多大な損害をもたらしただけでなく、製造業者、小売業者、そしてカスタマーを圧迫しました。その原因の一端は、米国企業がかなり以前から、いわゆるジャストインタイム(JIT)物流に依存していたことにありました。

この危機は、ユーティリティやJIT物流の限界について、私たちに何を教えてくれたでしょうか。このメソッドの利点を保つためには、何を変える必要があるでしょうか。JITの欠点を補うために、組織はどのような自助努力ができるでしょうか。物流の専門家によると、鍵となるのは、JITの本当の意味を理解することだそうです。

災害、大災害、サプライチェーンの途絶

JITのベースとなるアプローチは、1938年に日本の自動車会社であるトヨタが発明しました。2つまりJITは新しいものではないのです。JITとは、要するに無駄を排除することです。倉庫には、必要になりそうなもの全てではなく、今必要なものを格納すべきで、会社のニーズや、何を、いつ、どこから届ける必要があるかを理解することが不可欠です。これは素晴らしい考え方のように聞こえます。では、何が問題なのでしょう。 

問題は、意思決定者が分かりやすい指針に飛びつき、人生はそう簡単には行かないこと、私たちの行動のどの部分も、アベンジャーズのように指をパチンとすれば成し遂げられるものではないという事実を無視することで起こります。

ですから、意思決定者が持続可能性よりも短期的な利益を優先すると、彼らは対価を払うことになります。とりわけ新型コロナウイルスのパンデミックに襲われたときには。トイレットペーパーや手指消毒剤、個人用保護具、換気扇、鳥肉その他の食品、果ては材木までが不足したパニックを忘れる人はほとんどいないでしょう。この問題は、やっと接種が開始されたワクチンにも波及しました。 

こうした物資の不足が非常に深刻化したことで、米国のジョー・バイデン大統領はとうとう、国防生産法を発動させました。マルチメディアウェブサイトのLawfareに掲載されたShayan Karbassi氏の言葉3を借りると、その目的は「ワクチン生産を補強し、家庭や医療現場でのウイルステストの提供を拡大させ、マスク、シールド、グローブといった不足している個人保護具の供給を増やすこと」にありました。

JITの限界に向き合うきっかけとなったのは、パンデミックやUriだけではありません。西部を襲った山火事から4、南東部のハリケーンまで5、あらゆる危機がサプライチェーン問題を引き起こしました。いつも変わらないファンタジーとは異なり、これらの災害はこれまでいつも起こっていたことと同じではありません。災害はここ何年も増え続けており、これからも増え続けることでしょう。科学者によると、地球の温暖化が進むにつれ6、環境災害の頻度と深刻度が上がるそうです。

災害への対応策

サプライチェーン災害は2つの要素から成ります。

まず1つ目は、災害そのものです。2つ目は、JITの意味への誤解があります。JITは、ただそれができるからという理由で資材を貯めるのではなく、必要な資材を確保し、後は状況に応じて注文しろと指摘しているのです。しかしJITはしばしば、「そのときに必要な資材のみを確保しろ」という短絡的な意味に誤解されます。

Snowflakeの小売および消費財部門グローバル統括者のRosemary Huaは次のように述べています。「サプライチェーンの維持には、常にバランスが必要です。ジャストインタイムとjust-in-case(万が一)のバランスです。」 

すなわち、JITにおいては、現実的な緊急対応計画を徹底して盛り込むべきで、この計画を踏まえれば、在庫とは単に四半期の収支のみに貢献する単純なものであってはならないことが理解できます。在庫は、今や一般的になりつつある災害の影響を見込んだものでなければなりません。なにしろ、服、食料品、医薬品を提供している企業は、危機のさなかにこそ最大限の力を発揮しなければならない存在です。

「必要とされることは、ジャストインタイムの本当の意味を再教育することであり、ここで表面化してきているのはそのことです。」と、Ernst & Young社のEYグローバルおよびEYアメリカズサプライチェーン統括者のGlenn Steinberg氏は語ります。7 Steinberg氏によると、パンデミックと気候危機が重なる以前、「当社は常にジャストインタイムで稼働し、在庫をほぼゼロにしていました。ゼロとは言っても実際は比喩で、ゼロ在庫なしを意味するわけではありません。実際は、安全在庫レベルに対して、余剰在庫をゼロにするという意味です。つまりこの状況で苦労した企業は、適切なレベルの弾力性をサプライチェーン内に構築せずにジャストインタイムのみに依存していた企業です。」

LMA Consulting Groupの社長、Lisa Anderson氏は次のように述べています。「先見の明がある少数派のクライアントは、パンデミック中も通用する形でジャストインタイムの原則を運用していました。」8 「意思決定者として、私はある程度の安全在庫を確保する必要がありますが、受注に応じて在庫を補充することで、ジャストインタイムに予備を確保できます。しかし世の中の企業の80%は、完全に苦痛の世界にいます。」

このようなJITの原理主義者的アプローチに加え、企業が苦しんでいる他の問題としては独占供給があります。たとえば最も安価なサプライヤーに絞れば、元帳は良く見えるかもしれませんが、最初だけです。中国は、国策として安価な製造を提供してきました。しかし中国でパンデミックが始まり、さらにはシャットダウンです。部品の製造をこの地域の企業に依存して、それらの部品の代替ソースを持たなかった企業は行き詰まりました。

「中国の製造業が復活したとしても、私たちへの供給品は海を渡って荷下ろしできるでしょうか。」とAnderson氏は問います。同社では、トラック輸送、出荷港と受領港、そして本土の倉庫配送にバックアップを用意していました。1つの会社、1つの国、または1つの地域に供給を依存することは、問題の原因となります。

安価な契約の全コストを理解する

ある場所に、安い労働力と安い部品がある場合、その国からの供給を交渉すれば褒められるかもしれません。しかしながら、安いことは必ずしも低コストを意味しません。自動車の炭素コストもこの状況に似ています。つまり電気自動車がガソリンを必要としないからといって、それが環境に影響を及ぼさないという意味ではありません。電気自動車と非電気自動車を比べるならば、製造費用、燃料費用(もしあれば)、メンテナンス費用、そして廃棄要素の再利用費用や処分費用を追加する必要があります。

同様に、本当のコストを完全に理解していない企業は、サプライチェーンに関して誤った意思決定をしがちです。このような計算は、環境の変化に合わせてシフトさせる必要があります。

Steinberg氏は次のように言いました。「これまで、調達担当者たちは部品ごとの原価について交渉することにフォーカスしていました。そして彼らは、拡大したサプライチェーンのグローバルな性質を考慮して、合計陸揚げコストに注目する必要性に気が付きました。トップ企業は今や、主要な役割を果たすサプライヤーの弾力性や持続可能性にも注目しています。持続可能で多様なソーシングといった重要なトピックの中で、ティアNの供給基盤への可視性やトレーサビリティーが先頭に躍り出ています。」

物流プロフェッショナルは、リスク管理とリスク抑制のバランスを取る必要があります。 

Steinberg氏によると、「リスク抑制については、ある程度の混乱が生じても、サプライチェーンが問題なく機能するよう、サプライチェーンへの投資や変更をします。またあなた自身の対策を徹底し、リスクを排除する必要がありますが、これにはお金がかかります。リスク管理については、混乱が発生したそのときにリスクに対処します。混乱が生じるリスクは依然としてありますが、それが起きたときに対処して回避することで、おそらく打撃は受けますが、投じるお金は少なくて済むでしょう」とのことです。

Steinbergは、問題は「リスクが実現する可能性が非常に低いときに、そのリスクを排除するために多額の資金を投じたいでしょうか。リスク抑制よりもリスク管理の方が経済的かどうかを見極める意識的な努力が必要です」と語っています。

ボトルネック、政治的なリスク、および倫理上の懸念は、物流分野の意思決定者に、最安の入札イコール最良の決定という認識の再考を促しています。

「これからは、どこであろうとカスタマーの需要に近いところに生産施設を移動させるリショアまたはニアショアの動きが活発になると思います」と、Anderson氏は言います。 

上記の解決策に加え、テクノロジーも、物流プロフェッショナルによるデータの取得や分析を助け、JITを機能させます。特に、人工知能やエッジコンピューティング技術は、「リアルタイム」をリアルな世界にもたらすお手伝いができます。

Steinberg氏によると、このような技術により、サプライチェーンのエキスパートは「いま現在、さまざまな障害で問題が山積みのサプライチェーンをより良く把握できるので、より多くの機能を活用できるようになる」ということです。

問いへの回答

それでは、パンデミックによってJIT物流が失敗であることが証明されたのでしょうか。その答えは、JITがあるべき姿と同じくらいシンプルです。この哲学は、緊迫した状況下では裂け目が見えましたが、一方で実務としての価値は再確認されています。

ジャストインタイムとjust-in-case(万が一)との間のバランスを取りながらJITを実践するならば、道を誤ることはないでしょう。供給経路にボトルネックがないか定期的に検証し、それらを排除するべく対処すれば、危機的様相がますます高まっている経済を生き抜く好機が得られるでしょう。生き残りをかけた問題に対して古い解決策に固執してしまう認知バイアスを克服できれば、恐れが少なく、より多くのチャンスに恵まれた未来を実現するための変化を受け入れることができるはずです。 


1 bit.ly/2WPmlr3
2 bit.ly/2VrSFjo
3 bit.ly/3Cg8JWk
4 bit.ly/3jro5Pb
5 ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK556352/
6 climate.nasa.gov/
7 ey.com/en_us/people/glenn-steinberg
8 lma-consultinggroup.com/