注:本記事は(2021年9月21日)に公開された(Beyond Vertical: Secure Cross-Industry Collaboration Drives True Innovation)を翻訳して公開したものです。

普段意識もしないことですが、ガソリンスタンドに車を乗り入れ、給油機でクレジットカードを挿入するというのは、実は大きな業界横断的なイノベーションでした。ATMと給油機を融合させることで、セルフサービス式の給油機が実現したわけですが、これが登場したのは1973年、テキサス州のアビリーンにあるガソリンスタンドでした。興味深いことに、1994年まで、セルフ式の給油機を提供しているガソリンスタンドはわずか13%に留まっていましたが、それから10年も経たない2002年では、セルフ式給油機を採用しているガソリンスタンドが80%にまで急増しました。Petroleum Service Company社はこの件について、イノベーションを本格的に拡大させるには、電気通信といった他の業界とのコラボレーションが必要だったと述べています。1 

歴史的に見て、業界横断的なコラボレーションは、皆が高く評価し、恩恵を受けられるような多くの革新的なブレークスルーを生み出してきました。顕著なものとしては、ガラス、ケーブル、エレクトロニクスが融合した光ファイバーが挙げられます。これにより高速インターネットへのアクセスが促進されました。今では、業界横断的なデータコラボレーションもまた一般的になってきています。自動車メーカーは保険会社とテレマティクスデータを共有して、保険料の最適化とパーソナライズを推進しています。小売業者はCPG(消費財)メーカーとデータを共有して、製品開発と需要予測の的確化を図っています。電気通信業者は金融サービス組織と協働して、信用スコアリング手法を改善し、モバイルバンキングサービスを提供しています。

必要は多くの場合イノベーションを生み出します。このたびのパンデミックは、業界や地理の境界を越えて、データアクセスとコラボレーションを加速しました。世界保健機関のデータシェアリングおよびレポート作成プロトコル「COVID-19 Open」は、危機のさなかにおけるデータシェアリングの枠組みを確立しました。2 ロイターによると、電気通信事業者は政府とデータを共有し、モビリティと感染の可能性を追跡することを目指しているということです。3 旅行会社はフライトのキャンセルや各国の規制に関する情報を共有して、刻々と変化する旅行環境に関する最新情報を顧客に提供できるようにしています。今は例外的な事態ではありますが、こうしたデータシェアリングの一部は今後も残り続けるでしょう。

パンデミック後の世界に移行する中で、社内のデータサイロを解消して事業部門間でデータを共有するだけでは、もはや十分ではなくなることでしょう。企業はますます先を見据え、業界の垣根を越え、ビジネス課題を解決し、価値を提供する機会を求めていくようになり、業界横断的なコラボレーションがさらに増えるものと予想されます。

新しいフロンティア:セキュアデータコラボレーション

パンデミックによってヘルスケアと生命科学に注目されるようになり、その両方が業界横断的コラボレーションの指標となっています。医薬品企業の医薬製品開発はヘルスケアの岐路に立っており、それ自体が多業種的な取り組みであり製造でもあります。イノベーションを推進するには、匿名化された患者記録、臨床データプール、医師による記録、薬局による記録などといった、分散しサイロ化されたデータソース間の複雑なデータ関係を調整する必要があります。新型コロナウイルスワクチンの迅速な開発と提供は、データシェアリングのメリットを見せつけました。しかしヘルスケア業界において、データシェアリングは必ずしも簡単なものではありません。

パーソナライズされた医療の実現には、データコラボレーションが必要です。疾病や治療に対する個々の反応を予測するためにも、データは患者ライフサイクル全体にわたって共有される必要があります。病院、クリニック、薬局はデータを共有することで、診断から治療、そしてその効果まで、患者の完全なる全体像の把握に努めています。パーソナライズされた医療は個人データから始まりますが、それらはたいてい共有不可能なものです。しかし新しいテクノロジーがあれば、個人のプライバシーを侵害することなく、データを共有できます。これらの手法はセキュアデータコラボレーションと呼ばれます。

金融サービス業界において、保険企業や銀行は、業界横断的なデータシェアリングを通じて、詐欺師や不正取引のパターンを理解し、詐欺を検知することを目指しています。米国のある大手保険会社は、他の保険会社と詐欺モデルを共有し、さらに多くのデータで機械学習モデルをトレーニングすることを可能にしています。また、薬局と保険会社はデータシェアリングを通じて、保険金請求詐欺の特定に注力しています。セキュアデータコラボレーションでは、プライバシーや産業規制を侵害することなく、データシェアリングからメリットを得ることができます。

エネルギーおよびユーティリティ業界において、データコラボレーションは目新しい事柄ではありませんが、それがもたらすチャンスは広がり続けています。エネルギーパフォーマンス契約は、しばしば、保険会社、銀行、建設会社、およびエネルギー機器施工会社間の協力に基づいています。古い建物を改築または改修する際、プロジェクトの資金調達は将来のコスト削減を見越して行われます。機器メーカーと建設会社がパフォーマンスを保証し、経時的なコスト削減額に基づいて銀行がプロジェクトに融資し、オーナーがローンを返済します。データシェアリングはこれらの業界横断的なリスク評価を可能にし、この種の条件付きのビジネス融資を支えています。

個々の家庭に設置されているスマートメーターは、エネルギー消費量に関する情報を伝送することで、文字通りデータコラボレーションの新しい扉を開いています。このデータの分析により、消費者は他者と比較して自らの消費行動を変えることができる一方、ユーティリティ企業はより的確に需要を予測し、適切に供給できます。このデータは個人情報であるため、他者に見られないようにしながらデータを共有するなど、セキュアなデータコラボレーションが必要です。

データでクラウドに種をまき、イノベーションを加速する

Snowflakeデータクラウドにより、企業は自らの業界を越えて思考し、データシェアリングを通じて新しいイノベーションの機会を特定できます。小売業者やCPGメーカーは、データを共有してより良い商品開発を行い、より的確に需要を予測し、在庫や価格を最適化できます。広告会社やメディアはデータシェアリングにより広告をパーソナライズしてインパクトを強化できます。ヘルスケアの場合、患者、医師、薬局、保険会社をつなぐことで医療成果を向上させ、コストを削減できます。

しかし、これらの例には、データセキュリティやプライバシー上のリスクや懸念も存在します。企業が自らのデータを表示させずに情報を共有する方法はないだろうか、といった発想が最初に形となったのは、1980年代初頭、Andrew Yao氏が「2人の人物が互いのデータを見せずに情報を共有できるか」という問いを投げかけたときでした。4 仮定のシナリオはこうです。2人の大金持ちが、どちらが多くの財産を持っているか知りたがっていました。しかしどちらも、相手に自分が持っている財産の正確なところを明かしたくはありませんでした。情報は共有したいけれど、見せたくない。それは不可能に思われます。 

しかし、実は可能なのです。数学者たちはそれを非常に複雑な証明で解き明かしましたが、コンピュータを利用すればもっとうまく実行できます。Snowflakeは、データを暗号化し、二重ブラインド結合と安全なユーザー定義関数を使用してコラボレーションできるツールを提供しています。ユーザーは、データを復号化すると結果を取得できますが、他者のデータを実際に目にすることはありません。2人の大金持ちは、具体的な金額を知ることなく、どちらが裕福かを知ることができます。上記のシナリオの場合、病院、保険会社、またはユーティリティ企業は暗号化データをプールしてアナリティクスを実行することにより、パーソナライズされた医療、詐欺の検知、エネルギー需要の予測に役立てることができます。

セキュアデータコラボレーション、すなわちデータクリーンルーム(実際はルーム(部屋)ではありませんが)について、Snowflakeからの最新情報にご注目ください。


1 bit.ly/3zKGA7Z

2 bit.ly/3kQLXwg

3 reut.rs/3DHdb0K

4 bit.ly/3BwWjb6