注:本記事は(2022年4月28日)に公開された(Why and When Should You Verticalize Your EMEA Sales Team)を翻訳して公開したものです。

EMEA(ヨーロッパ・中東・アフリカ)地域でのカスタマーファーストなセールスアプローチについて。セールスにおける取り組みの方向性を、販売したいテクノロジーではなく、お客様に向けてみましょう。

垂直化は、SaaSプロバイダーの成熟とともに有効な戦略となっています。垂直化の実施により、営業担当者はお客様と分かりあい、業界やサブ業界、また個々の国にしっかりと浸透することができます。あらゆる商談は、製品に関する水平的な話し合いではなく、顧客特有のビジネスニーズに焦点を当てた、より密度の高い話し合いへと変化します。

Snowflakeでは世界的に、エンタープライズ顧客によるデータの結集をサポートできるよう、特定の業界に特化したいと考えていました。そこで、営業組織の垂直化を決定し、米国のセールスチームから着手しました。昨年、EMEA内でもプロセスを開始し、英国に金融サービスセールスチームを発足しました。試験的プログラムで成果を上げ、4か月後には垂直化プログラムを設定し地域全体での実施を開始しました。

Snowflakeにおいてこの戦略が功を奏していると報告できることを嬉しく思います。EMEA地域のさまざまな業界、さまざまな国において、エンタープライズ顧客に関する理解が深まりました。もしEMEAにおける垂直化セールスアプローチを検討しているなら、当社が発見したベストプラクティスや直面するであろう課題を参考にしてください。

垂直化がもたらす顧客へのメリット

何よりもまず、垂直化されたセールスモーションはターゲットとする顧客にエンリッチ化されたセールスエクスペリエンスをもたらします。市場についての知識を持ち、ニーズを把握し、ソリューションがどのようにメリットをもたらすのかを具体的に説明できる人物がターゲットとなる顧客と相対することになります。この営業担当者は、お客様と考え方を共有し、利用可能なソリューションとお客様が直面している課題をつなげ、提供できる実際のメリットや成果を提示することができます。

垂直化への移行か進む最も確固とした理由の1つが、競争優位性の利用です。業界を形成する市場原理の理解を深め、お客様が直面するであろう課題を予測できることで、カスタマイズされたソリューションで製品との食い違いに対応するという戦略を生み出すことが可能となります。市場投入への時間、さらに私たちのビジネスのあらゆる局面におけるお客様とのコミュニケーションにより、競合他社との差別化を図ることができます。また、より速やかに行動することにより、より短期間でスケールを達成し、業界に特化した先進的なプロダクトソリューションを提供することもできます。

営業担当者は、Snowflakeのデータクラウドがどのようにお客様に特化したビジネスニーズに対応できるか、だけでなく、新たなビジネス機会の創出に向けどのようにデータエコノミーにアクセスすべきかについてもサポートします。その一環として、Snowflakeデータマーケットプレイスを介し、お客様と商用データプロバイダーと他のSnowflake顧客とをつなぎ、データの共有やコラボレーションを行うこともあります。例えば、当社のデータマーケットプレイス内ですでに販売活動をしているデータパートナーやベンダーのエコシステムと当社顧客をつなぐことで、顧客はFactSetやWeather Sourceデータセットのような業界特有のデータへのアクセス方法を学ぶことができます。その結果、一方または双方の企業が新たなデータ製品、サービス、アプリケーションを生み出し、収益増加につながる可能性があります。

北米、EMEA、APJで働くビジネス、テクノロジー、データ部門のシニアマネージャーを対象とした最近のグローバル調査によると、企業の45%のみが他の組織とデータを交換することができ、データの移動や複製が不要なライブデータシェアリングを実現するテクノロジーを有している企業はわずか22%であることが分かりました。今回取り上げた垂直化モーションにより、営業担当者はソートリーダーとなって、ほとんどの組織に影響を与えるデータエコノミーへのアクセスという課題をどのように克服するのか、顧客が自社のビジネスについてよく考えるためのサポートをします。

プロバイダーへの注意:垂直化に伴う課題

セールスチームにより垂直化における多くのメリットが見出されるのと同時に、本戦略の採用により企業が直面する可能性のある課題についても認識しておく必要があります。

最大の課題は社内にあると思われます。考え方や伝えるべきメッセージは、ソリューションファーストから業界ファーストに転換しなければならず、それに伴ってEMEA地域の組織全体で設備の一新が必要となります。あらゆる部署で、仕事のやり方を再検討する必要があります。例えば、プロフェッショナルサービス部門はサービスのデプロイ方法の変革を、マーケティングチームは販促物の更新が必要となってきます。以前は1つのマーケティングピースで十分であったものが、各業界において際立つ焦点や専門用語に対応するためには、5~6枚のチラシが必要となるかもしれません。

セールスやセールスエンジニアの観点からいうと、全員が顧客の考え方を理解し垂直化されたモーションで販売する必要があり、そのためには新たなツール、研修、イネーブルメントが必要です。営業担当者は、先方に出向き、できるだけ早く販売しようとしがちなため、営業組織内における何らかの摩擦を想定して準備をしておくことが重要です。この場合は時間が成否を分ける要因となるため、研修の実施やイネーブルメントピースの作成をできるだけ速やかに行うことが必要です。

他にも、営業担当者の雇用や研修を考慮する必要がありますが、私としては、これは課題ではなくむしろ機会と捉えたいと考えています。Snowflakeでは、ターゲットとしたい業界(金融サービス、製造、小売など)に関する深い専門知識が必要であると認識しており、垂直化は、完全に新しい人材ネットワークを開設します。従来の「ソフトウェア販売」検索の枠を超え、私たちは、ビジネスに大量のエクスペリエンスや思考の多様性を取り入れました。新たな業界リーダーやスペシャリストは深い専門知識と当該地域とのコネクションを有しており、Snowflakeユーザーに業界の専門用語を教え、代わりにSnowflakeについて教えてもらってきました。この新しい環境において、当社は業界リーダーとの提携ビジネスに注力し、重要な顧客や商談が生涯価値につながるよう、サポートに努めています。

EMEAにおける明確な課題は、多数の国で多数の言語が話されていることです。けれども、垂直化においても独自の言語が存在することを認識する必要があります。さまざまな点で、業界はロケーションというよりも思考のシフトを表しています。どちらかといえば保守的な業界もあれば、より階層的な業界もあり、ときには文化的な違いがこれら2つのファクターに積み重なっている場合もあります。交流を確保し、あらゆるレベルで適切に事業を実施してくれる現地のエキスパートを雇用するのもひとつの戦略です。

規制環境も重要な検討事項です。EMEAでは、GDPRやデータレジデンシーやデータ保護といった法規の遵守において、クライアントを管理する義務が課せられています。どのターゲットカスタマーにおいても、この点は懸念事項となっています。そのため、セールスプロセスや契約においては、これらの法令や地域的な規制に対応し、顧客の疑問に対処し、規制上のあらゆる障害を克服していく必要があります。

EMEAにいるセールスチームの垂直化実施タイミングは?

垂直化のタイミングについては、迷っているところです。直感としては、本モーションをサポートする十分な人材が確保されており、事業の他の分野に影響が出ないという前提において、できるだけ早期に実施すべきだと思います。中核となる市場について完全な垂直化を実施し、2番目の市場についてはできる限りの垂直化を実施することを推奨します。ただし、小規模のチームが担当する新しい市場に関しては、実行可能かつ望ましい状況になるまで待つべきだと思います。

より状況に合わせた回答としては、垂直化はすべてを一気に解決するアクションではないため、多様なファクターを考慮して判断するべきです。

  • ソリューション。最初の検討事項は、あなたが販売するものは何かという内容です。例えば、特定のITソリューション(従来のインフラストラクチャ、アプリケーション、パフォーマンスのモニタリングソリューション)は、業界特有のユースケースを適用しても得られるものはさほど多くありません。一方で、販売対象が企業や業界の垣根を越えてビジネスの手法を変えてしまうようなビジョンや製品であれば、垂直顧客に合わせてセールスを調整するべきでしょう。
  • 市場の成熟度。市場に新しく参入した企業や新製品を投入した企業には、通常、ソリューションの価値を説くことから始める必要があります。焦点は、適正な市場を見極めて迅速に製品を販売することであり、これは業界に深く入り込むことにつながりません。一般的に、垂直化はより成熟した企業に合致した戦略と言えます。
  • 営業担当者。若い企業や新製品を投入したばかりの企業では、ほとんどの場合、営業担当者が十分に揃っていません。大企業でさえ、適切な垂直化を実施するには、その国や地域で確固とした地位を築く必要があります。数も重要です。垂直化に向けてチーム全体の雇用が必要な場合、大きな難題を抱えることになるでしょう。
  • GTM戦略。ターゲットバイヤーが業界にまたがるさまざまな課題やニーズを抱えている場合、垂直化により、ソリューションを販売しやすい立場を確立できるでしょう。ここでも同様ですが、どの企業で使用しても同じように機能する製品を販売する場合、垂直化の意味がありません。垂直化ソリューションを位置付けるには、多大な努力が必要なため、リソースをうまく活用しなければなりません。
  • 獲得可能な最大市場規模(TAM)。計画の観点からいうと、筋道を立てて実行に移すには、すでに足跡を残しており、多数の営業担当者を揃えている必要があります。業界別、地域別に獲得可能な最大市場規模を確認してみましょう。特定の市場において、セールスモーションを正当化する十分な収益を上げることができるでしょうか。
  • パートナーがけん引する市場。EMEA市場の中には離れすぎていて、パートナーがけん引する分野に留まった方がいい場合があります。パートナーの方がより経験豊富で、セールス管理にも優れているのであれば、これらの市場に直接販売したり垂直化を実施する意味はありません。

セールスにおける取り組みの実行と垂直化

EMEAにおける垂直化プロセスについて多くのことを学びましたが、これらのベストプラクティスについて常に心に留めるべき点として、自身のチームやビジネスにとって最適なものを選択する、ということを強調しておきます。どんな製品を販売しようとしているのか、市場の成熟度はどうか、人材は十分か、市場投入はどのように選択するかといった点が重要となります。

パイロットプログラム

地域全域でのロールアウト実施前に、EMEA地域の1つの国で、垂直化のためのパイロットプログラムの実施を検討してみましょう。私たちは英国で、金融サービスのセールスチーム立ち上げ、パイロットプログラムを実施しました。ターゲット顧客の密度が高く、市場ニーズが知られており、業界エキスパートの雇用がしやすく、分野を理解するためのリサーチや情報が豊富な分野を選びました。

当社のパイロットプログラムにより、チーム全体が垂直型セールスがどのように機能するかを確認することができ、戦略の実施において何らかの支障が出てもうまく解決し、地域全体における垂直化の最良のスケーリングを決定するのに役立ちました。パイロットプログラム実施から4か月で、EMEAにおける完全な垂直化を計画、実施することができました。

パイロットプログラムの開始には、豊富な機会がある、できる限り論理的で実施が容易な環境を選択します。そのためには、市場に参入予定の国ひとつひとつを調べ、どの分野が一番強力なのかを把握し、テクノロジー導入に対する総合的な適性を評価します。このような分析は、パイロットロケーションの選択に役立つだけでなく、EMEA全体での垂直化をロールアウトする際にも有効です。

水平型の販売を行っている企業も、顧客のセールスに関する集積されたデータを保有しています。そのため、CRMからのデータを使用して顧客が現在どのような状況にあるか、パイプラインは今後どのようなものとなるか、どの業界が成長のための苗床として突出下存在となるかといった点に基づいて垂直化する分野を決定することを推奨します。また、このデータを外部のマーケットデータと組み合わせて、機会の有無について検証を行うのもよいでしょう。もちろん、営業担当者からの事例データも確認しましょう。多くの場合は、現場を知っている営業担当者が、一番よく理解しているものです。

セールスイネーブルメント

チーム内の全員が、なぜ垂直化が重要なのか、どのようにして営業担当者により多くの成功をもたらすのかについて理解しておく必要があります。移行やイネーブルメントをサポートするために、業界のエキスパートを雇用しましょう。さらに、垂直化がどのように機能するかを説明し、業界の知識や用語を提供し、特定の分野におけるユースケースについて営業担当者を教育し、ソリューションの販売方法を説明するようなセールスイネーブルメントの研修を実施し、資料を作成しましょう。さらに、業界に焦点を当てたリソースを読んだり動画を視聴するよう営業担当者に働きかけ、営業担当者がその分野に精通しているようにしましょう。

上記のように述べてきましたが、私が実施するとすれば、より早期にリアルワールドシナリオに取り組むことになると思います。営業担当者は、実際に何かを行い、実践することによって学んでいきます。読んだり視聴したりするだけでは十分とは言えません。現実世界における考え方を理解していなければ、安心して自然に何かを実行することはできません。そのため、実際の顧客と練習のための協議を実施し、真摯にフィードバックを受け止めましょう。これにより学習が促進され、垂直化がより自然なセールスモーションとなります。

水平ユースケース

セールス組織全体のエンドツーエンドの垂直化の実現を考えると、ためらってしまう場合があるかもしれません。より簡単に考える1つの方法として、より水平型に近いユースケースについて営業担当者を教育することから始めるのもよいかもしれません。

例えば、どれだけ多くの業界がサプライチェーンを使用しており、360度顧客ビューを推進したいと思っているかを考えます。具体的な語句は変わるかもしれませんが、このようなユースケースは、よりユニバーサルな課題を抱えているため着手しやすいポイントです。わずかな差異があるだけで、基本的には業界を超えて同じようなユースケースであるため、セールス組織全体での実現が可能です。このような戦略は、最初から業界特有の課題に取り組むよりも、取り掛かりやすいと思います。

多くの業界(製造、小売など)では、外部の市場原理やグローバル状況によりサプライチェーンに障害が生じます。そのためSnowflakeでは、天候、輸送用コンテナ、港、その他の関連ソースからメトリクスを収集し、これらのデータセットを統合することでデータクラウドを有効に活用する方法を営業担当者に伝えます。これは、顧客がサプライチェーンの課題をデータを使用して明確化するという点において営業担当者がサポートする機会を与えるだけでなく、業界全体においてユースケースが類似していることが多いため、大部分を有効活用できるというセールスリーダーにとってのメリットにもなります。

パートナー

ソリューションやコンサルティングのパートナーは長期間にわったって、垂直化されてきた可能性が高く、そのため、垂直GTM戦略に関する実績が構築されています。業界の考え方を理解しているため、水平的なテクノロジーベースの考え方を学ぼうとするよりも、業界の考え方に沿ってソリューションを販売することが自然となるでしょう。だからこそ、垂直化はパートナー関係に対してのみメリットがあるというのが、私の考えです。

従来からパートナーは有効な存在でしたが、垂直化の最中や以降の期間、業界の根幹を変えるようなやり取りを多く交わしてきました。信頼のおけるパートナーを頼り、取り組みに最適なターゲットについて相談することは賢い方法だと思います。パートナーはその豊富な経験を活かし、状況への対応について堅実な状況判断をしてくれるでしょう。

サクセスメトリクス

自社にとってどのようなサクセスメトリクスが最も重要か、垂直化によるサクセスをどのように提示できるかを慎重に検討します。収益、目標成長率、雇用メトリクス、市場浸透率などは、よく追跡されている指標ですが、その他にも追跡すべき社内のサクセスメトリクスもあります。

例えば、Snowflakeでは市場への浸透率を考慮しますが、本当に求めているのは、各業界における市場を動かすアカウントの獲得です。EMEAの各業界におけるデータクラウドソリューションとなるのが、当社ソリューションの本質です。

サクセスメトリクスは垂直化の実施状況によって変わることはありませんが、垂直化セールスモーションは、このような業界に対する営業担当者によるターゲティングや販売プロセスを短縮化、容易化します。

EMEA垂直化とビジネスの連携

垂直化は、顧客や営業担当者だけでなく、会社全体にとって有意義なものです。自社のEMEAでのセールスの取り組みはグローバルなセールスの取り組みに統合されるべきです。

組織内の別の部署と話をする際、私は垂直化におけるメッセージをシンプルにする方がよいと考えています。私が常に言っているのが、「カントリーファースト、バーティカルセカンド、セグメントサード」な考え方です。例えば私は、英国の金融サービスのエンタープライズチームや英国の製造コーポレートチームを抱えていますが、EMEA製造垂直化チームを抱えているとは絶対に言いません。単に機能しないからです。垂直化についてどのように話すかということは些細な問題のように思えますが、その分野内の顧客がどのように捉えられているかを反映し、いかなる混乱も生み出さないようにするべきだと思います。

最後に、2つのことを心に留めてほしいと思います。1) 市場への浸透に非常に長い期間を要する業界もあります。そのため、その地域に対しどれだけのエネルギーを注入するのか、また必要な顧客への教育など、慎重に考える必要があります。2) 垂直化に適さない国や業界もあります。成功機会を真摯に捉え、適した選択を行ってください。

これが垂直化によりセールスを成功に導く最良の方法です。