注:本記事は(2021年9月22日)に公開された(The Case for Disease Surveillance)を翻訳して公開したものです。

Rob Reid氏がポッドキャストドキュメンタリー「Engineering the Apocalypse(大災害のエンジニアリング)1の中で「グローバル免疫システム」と呼んでいた、将来のパンデミックを早期に検知し、世界の医療インフラに対策を実装するシステムを構築することを想像してみてください。

新型コロナウイルスがエピデミック(地域的な流行)ではなくパンデミック(世界的な流行)であるという事実は、グローバル免疫システムの必要性を私たちに突きつけました。現在の世界は根本的にインタラクティブである2ため、どのエピデミックも封じ込められる前に世界に飛び火する可能性が高くなっています。迅速に検出できれば、個人の治療が改善されるだけでなく、適切なデータシェアリングを通じて、感染症の発生そのものを早期に把握し、抑制または封じ込めにつなげることもできます。

鍵となるのはデータです。調査会社のIDC(International Data Corporation)の予測では、2025年までに世界の年間データ量は175ゼタバイトに達するそうです。3その大きな要因となっているのが、健康とウェルネスに関する問題です。IDCによると、たとえばMRIだけ見ても、技術の高度化により頭部の画像診断時に撮影される画像数が2,000枚から20,000枚に増加しているとのことです。

Journal of Big Data」には、「ヘルスケアは巨大なデータリポジトリである」と記載されています。4 

呼気分析計と電話のようにシンプルなデバイスを同期させて、毎朝呼気で健康をチェックし、伝染病に感染していると判明したらアラートが送信されるような世界を想像してみてください。これこそ今、生命科学が取り組んでいる分野であり、世界の医療を治療システムから予防のエコシステムへと変える可能性があります。

過去は序章にすぎない

Snowflakeのヘルスケアおよびライフサイエンス戦略部門グローバル統括者のTodd Crosslinによると、医療分野におけるこの数年間で最も重要な技術的発展は、仮想医療、医療デバイス、そしてゲノミクスだということです。これらの分野はそれぞれ、グローバルな医療早期警告システム構築への貢献が期待されています。

「遠隔医療は、すでに約5年から10年もの歴史がある分野です」とCrosslinは言います。しかし新型コロナウイルスの感染拡大により、ハイブリッドケアと呼ばれるシステムの普及がますます加速しました。あまり深刻ではない症状はオンラインで診察し、実際の検査なしでは診察できない問題については対面で診察するといった二段構えのやり方が、今では一般的になっています。

「さらに私たちは、大型の機械に頼る画像診断や診察から脱却し、より小型のデバイスで同じことができるようになっています。最終的にはiPhoneでの健康診断も可能となります」と、Crosslinは言います。

健康に関する測定やコミュニケーションを助け、アドバイスを提供してくれるウェアラブルデバイスも、もう1つの大きな医療テクノロジーイノベーションです(こちらのペイシェントジャーニーに関する記事でいくつかのデバイスを確認できます)。

Crosslinが言うところの医療イノベーションの三本柱における「3つ目の柱」はゲノミクスです。DNAマップがSFから現実になった時、高額なコストも現実のものとなりましたが、今ではそのコストも急降下し、多数の営利企業がインターネットとメールを通じてマッピングサービスを提供しています。

「価格が大幅に下がったため、スクリーニングやシーケンシングの受注が増え、それがデータの爆発的増大につながっています」と、Crosslinは説明します。

治療法も着実に進歩し、より迅速かつ効果的になっています。DNAnexus社のJohn Ellithorpe社長によると、人間の免疫の力を活用して病気(特に癌)を治療できるようになったことも、近年の主な発展の1つだそうです。

「これは、身体のメカニズムの理解全体のほんの転換点または序盤にすぎません」と、Ellithorpe氏は言います。これは、身体が自身を癒す仕組みを活用するための1つのモデルです。同氏は、新型コロナウイルス用を含め、mRNAワクチンの製造に使用されている機械や、CRISPR5ゲノム編集技術といったイノベーションについても言及しています。

これら両エキスパートが語るイノベーションのアーキテクチャには、1つの共通項があります。それは想像上のグローバル免疫システムが実現する未来のための基盤を築いたという点です。

次の展開:協調型クラウド

未来には何が待ち受けているでしょうか。Crosslin氏は、よりデータが増え、そのデータを燃料とする飛躍的な発展が起こると予想しています。現在は、データを収集し、場合によってはその場で処理する、いわゆるエッジテクノロジーが増えてきています。6 医療テクノロジーやセンサーはより多くの情報を集めるようになり、人工知能や機械学習の進化により、トレンドやパターンをより迅速かつ正確に認識できるようになるでしょう。

これらを総合すると、ほとんどの患者の目には届かなくても、今以上にデータが医療を理解するための手段になっていくと言えます。

このデータを人々の健康の実現に活用するために特に必要なものは、Crosslin氏によると、スーパーチャージ協調型クラウドだそうです。

「最新のクラウドデータプラットフォームでは、ソフトウェアやハードウェアを構築せず、構成だけでライブデータのコラボレーションが可能です」と、Crosslin氏は言います。公衆衛生システムは、このようなプラットフォームを使用することで、浮かび上がってきたパターンに関して早期にアラートを出し対応できるだけでなく、研究者はより大規模な共有データセットを活用して臨床試験を補強したり、医薬品開発を促進したりできます。

Ellithorpe氏は、サブスクリプションによる医療は、このようなコラボレーションに貢献する新技術となる可能性が高いと考えています。

「目指すのは、病気になって医者を呼ぶのではなく、サブスクリプションソフトウェアサービスのようなモデルに移行することです」と、Ellithorpe社長は語ります。

「人々は、自分の健康に対してサブスクリプション契約をすることで、サービスにアクセスするたびに検査結果や医療記録に基づく情報を得ることができます。」この種のサービスは、Fitbitsなどのパーソナル医療デバイスや、そのデバイスが集め、通信し、処理するデータと連携します。

データは引き続き、診察や治療の未来を支え続けます。現況へと導いてきた技術や、ここから進化していく技術により、私たちはグローバル免疫システムのまとまったイメージを得られるようになるでしょう。

プライバシーに関する課題

必要な技術が急速に進化する中、患者のプライバシーは高いハードルであり、慎重を期する必要があります。米国の「Health Insurance Portability and Accountability Act(医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律)」7(HIPAA)は、「Privacy Rule(プライバシー保護規則)」8で患者を保護しています。この規則は「個人の医療記録やその他の個人健康情報を保護する国家標準を打ち立てる」ものであり、患者の医療情報のプライバシーを保護し、保険会社や医療法人間での回覧を規制しています。英国の場合、類似の法律として「Data Protection Act(データ保護法)」があります。

個人に紐づけられない集計データは、同様の規制の対象とはなりません。個人の医療情報をデジタルで大規模に集めて共有するには、神経外科的な精密さと透明性を備えたソフトウェアとシステムが必要です。

グローバル免疫システムのような巨大事業には、徹底的な透明性と、国際的な相互運用を可能にする一定レベルの標準性、ほぼ絶対的な水準のセキュリティ、さらには壊れることのない十分な弾力性を備えたシステムが必要です。世界中の知性を合わせれば、確かに十分なように見えますが、心配よりも健康を、私利私欲よりも信頼を優先する政治的意思を見出すことができるでしょうか。


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