注:本記事は(2022年5月3日)に公開された(Selling in Asia: How to Start, and How to Succeed)を翻訳して公開したものです。

今日の成長志向の強い米国企業の中で、アジア太平洋と日本(APJ)での販売のチャンスに触発されない企業はめったにありません。APJは広大で、かつ経済的に魅力的な地域であり、世界人口の約半分と、世界的な3つの経済大国(中国、日本、インド)を擁します。

しかし、これらの市場に進出するにあたっては、言語の多様性、非常に個性的な経済環境やビジネス環境、市場成熟度や技術普及度の格差など、課題が目白押しです。1つの戦略で全ての市場に対応できることはあり得ないため、どこに投資をし、どのようなROIを期待すべきかを見極めるのに苦労している米国企業が多く見られます。このようなAPJ固有の課題があるにもかかわらず、うまくいけば多大な成長と金銭的成功をもたらしてくれるこの地域は、企業を惹きつけてやみません。

それでは、どうすればうまくいくのでしょうか。

大切なのは、適切なタイミングで、適切な国の、適切なチームに投資をすることです。APJは、構築に数年かかる継続的な進化するプロジェクトとして扱う必要があります。ベストな商機がどこにあるかを定期的に見直し、優先順位を調整します。そして成功に向けて邁進する一方で、この地域でのビジネスの進め方について、米国本社を教育し、協力し合います。

Snowflakeにとって、データ量が急激に増大しているAPJは、多大なチャンスを与えてくれる場です。データの管理、共有、民主化、収益化は、あらゆる組織にとって大きな課題であり、Snowflakeのデータクラウドがあれば、APJの組織は自らのあらゆるデータを簡単に変換、統合、分析できます。Snowflakeにとっての鍵は現地に根差したアプローチであり、私たちが早期に優れた成果を上げている秘訣はそこにあります。

米国企業の成功の鍵はローカライゼーションにあり

ほとんどの米国企業は、国際市場に進出すべき時期と判断すると、欧州市場からスタートします。その後、関心がAPJに向かった場合、オーストラリアとニュージーランドが一般的な入口となります。これらの市場は英語圏であり、西洋的なビジネス慣習を持ち、革新的な技術をすばやく採用し、国内の競合企業があまり多くないといった特徴があります。

その次に向かうAPJ市場は、必然的に準英語圏のシンガポールとインドです。特にシンガポールはよくテック企業のハブとして利用されます。この時点では、市場の拡大、人材の雇用、ライトハウスアカウントや有力顧客の確保、商談の成立に注力し、さらなる成長とより多くの事務所開設を目指す傾向があります。

私の経験では、どの組織もおよそ4~5年にわたって前述のような方向へと奔走しますが、300名から500名ほどの組織に達すると、この戦略の結果得られたのは、シンガポールに一元化されたAPJオフィスと、英語しか話せない従業員、そして部門を越えてサポートを強化するべく追加されたマネジメント層であることに気づきます。このまま進むと、シンガポールのチームをさらに大きくすることを目指す内部報告や議論が増えてきますが、これには明らかな問題があります。投資がAPJの一部に偏っているということです。

実際にターゲットとする国の中に入らず、その国の言葉を話さずに、どうして広大なAPJ地域全体を十分に網羅し、現地との関係を築き、直接的な影響力を発揮できるでしょうか。

端的に言って、それは不可能です。現地に沿った取り組みを行うことこそ、最良のAPJ戦略であると、私は考えます。成功のための主な要素としては、以下の3点が挙げられます。

  1. 現地語を話し、現地のビジネス慣習を理解して、現地に根差して活動するチームを構築する。
  2. 現地のお客様の要望やニーズに応える現場の活動を促進する。
  3. 各国の市場原理を理解したうえで、各市場の成熟度を考慮し、状況に合わせて進化する拡張計画を立てる。

具体的に言うと、各国に進出したらまず現地組織を構築します。APJ国内で最初に雇用する人物は、最も重要な役割であるゼネラルマネージャー(GM)です。GMは、現地で人材を集め、会社の技術をどのように売り込むかを算段し、注文フォームを構築して、パートナーやリセラーと契約する必要があります。全くゼロからの環境で采配を振るい、現地に合わせるにはどうすれば最善かを見極めなければなりません。この現地組織で働く人は全員、お客様と直に向き合い、本腰を入れて支えていくことになります。

一方、本社にとって重要なことは、各地域または国を個別の地として扱うことです。つまり販売拠点の1つではなく、販売、マーケティング、サービス、ビジネス戦略の各統括者をGM自身が雇用し率いる事実上の会社として見なすのです。これらの組織は自己充足的で、お客様やパートナーと直接関わり合う必要があります。

私は、リーンなAPJモデルこそが最良のアプローチであると強く確信しています。ローカライゼーションへの投資はインパクトを最大限に高め、従来の一元的で大規模なAPJオフィスから溢れ出る報告書を減らすことにつながります。投資が現場に届けば、APJのリーダー達は自ら活動を推進できます。何しろ彼らはエキスパートであり、自国でどうビジネスをすればよいかを知り尽くしているのですから。

もちろん、テクノロジーや販売の観点から言って、一からやり直す必要はありません。会社でこれまで培ってきた優れた点をすべて活用するべきです。本社や他のグローバルオフィスからのベストプラクティスと現地チームの知識を組み合わせれば、それぞれの国で効果的に販売とサポートを行える最強のAPJ組織となるでしょう。

APJでの成功に必要なもの

APJでビジネスを始めることは、深い学習体験となります。従来どおりオーストラリアやニュージーランドからスタートする場合、これにより基盤を固め、早期にいくらかの収益を獲得し、残りの地域に向けた戦略を立てるチャンスが得られます。重要なのは、新しい市場エクスペリエンスのそれぞれから学び、それらの学びに基づいた拡張戦略を構築することです。

Snowflakeは、オーストラリアでの事業構築からの学びをもとに、日本での事業構築のスピードアップを図り、日本で得た新たな学びをもとに、韓国での事業構築を加速しました。こうした構築と学びのプロセスにより、新しい国への進出をどう正当化するか、初期チームをどう構築するか、人員は何人必要か、どのような部門をカバーする必要があるか、どのようなローカライゼーションを行うか、どれくらいのマーケティング予算で始めるかについて、スムーズで効果的な標準モデルを定め、即座に勢いを高めることができます。

APJ市場で事業を開始または拡大するときは、次の6つの要素を常に考慮してください。

ゼネラルマネージャー(GM)は構築者であれ

GMは、その国で強力な経歴と成功実績を有し、大企業の最高幹部と関係を築いてきた人物であることが理想です。

現地のエグゼクティブとの人脈があり、自社CEOの出席がなくとも、APJ企業の最高幹部と会議の場を設け、対話できる人物である必要があります。責任の上でも数字の上でも自らを大きく上回る人とも対峙できる存在感と人格を有する構築者が望まれます。こうした能力があれば、市場でより大きく、より良いチャンスをつかむことが可能となり、お客様との戦略的エンゲージメントがより強固なものとなるでしょう。

第1日目から、この人物は起業家精神を持ち、GMとして振舞う必要があります。単に商談をまとめるセールスマンであってはいけません。GMは、物事を成し遂げ、すばやいエスカレーションで問題を解決し、ビジネスを推進するためにはカスタマイズとローカライゼーションが必要であることを本社に説明できるなど、その役目にふさわしいDNAを持ち合わせている必要があります。実行と実現が鍵です。優れたGMは、自らがどのような組織を築きたいかについて、来る3年から5年の未来像を描くだけでなく、長期的に必要とする投資を正当化できるようなスタートアップレベルでの成長を、四半期ごとに実現しています。

私が最も重視する採用基準は、かつて自ら事業を構築した経験を持ち、それをもう一度やってやろうという意気込みを持つ人物であることです。何かを一から始め、大きくし、構築する過程を楽しめる人物です。GMは、雇用から販売、メディアやアナリストへのブリーフィング、チーム内の文化づくりまで、全てに積極的に取り組む人である必要があります。

現地での雇用

現地での雇用については、精力的で、根性があり、会社の文化に合った人を採用するべきです。全員が少なくともバイリンガルであるということが、非英語圏での基本的な採用基準となります。会社やグローバルネットワークに向けて英語を話せる必要もありますが、現地国の言語を話せることが必須です。時が経過するにつれ、この条件の重要性は薄れてきますが、初めは極めて重要です。

強力なローカライゼーション戦略のもと、GMはすぐさま全力で取り組み、適切な人物を迅速に雇用する能力があることが重要です。賢明なやり方は、プリセールスからポストセールスまで、あらゆる重要な職務をカバーできる頭数を第1日目から用意し、現地のエキスパートに仕事を任せることです。

市場アプローチ

APJでのスタートアップは、米国におけるプロダクト導入過程と非常によく似ています。米国での導入過程で起きる事柄は、APJでも起きる確率が高いです。お客様の課題解決も、プロダクトから引き出される価値も同じようなものになるでしょう。


Snowflakeは、米国の場合、オンラインマーケティング、アドテック、ゲーム会社、オンラインメディア、新興企業といったクラウドネイティブな企業の方が早期導入をしやすいことを経験してきています。一方、従来のオンプレミス型のデータウェアハウスを有しているエンタープライズ、大規模組織、金融サービス企業は、面倒な移行作業や規制上のハードルをクリアする必要があるため、時間がかかります。APJでも展開は同じで、当社の初期のお客様の多くは、Snowflakeへの移行がしやすいクラウドネイティブな新興企業です。各市場での勢いが増し、評判が確固たるものになってきてから、最高クラスのお客様との、より踏み込んだ商談に取り組むことになります。

とは言え、初期のお客様との取引は、多くの労力を伴います。この進出の初期段階では、あなたをよく知らず、おそらく大きな投資は行わないであろうお客様に対して、概念実証(PoC)を実行しているのだと心得ておくことです。これらの初期のお客様がもたらす収益によって、これからのローカライゼーションや人材の確保が可能になります。お客様の取り込みに成功し、取引企業のロゴが増え、現地国での評判を確立できれば、取引の規模は大きくなり始めることでしょう。対話も、技術的なメリットからビジネスとしての議論へと変化していきます。

パートナー

米国では、直接的にお客様と関わる方式が一般的です。ソリューションを構築したら、お客様に試していただき、気に入ったら使用を開始してもらうという形です。社内システム、販売方法、そして価格はみな、直接販売モデルが基礎となっています。

北アジアの場合、米国よりもパートナーを活用する傾向が強く、日本や韓国のエンタープライズ企業の80%が、システムインテグレーター(SI)に依存しています。製造、医薬、公共セクター、電気通信など、あらゆる業界の大手企業が、データとインフラストラクチャ管理に関する意思決定やアプリケーション開発を、SIや他の第三者に外注しています。

APJに進出する多くの米国企業が、「当社はパートナーを介しません」と直接エンドユーザーに働きかけようとしますが、これは通用しません。パートナー組織は、さまざまな意味でAPJのエンドユーザーと同族です。エンタープライズに到達するための勢いをつけるためには、エンドユーザーへのビジョンの売り込みと、パートナー企業への技術の売り込みを両方行う必要があります。つまり、パートナー企業を引き入れ、あなたの技術を気に入ってもらい、エンタープライズへの販売を促すのです。この現実に対応すべく、販売モデルを微調整し、パートナープログラムを改善していく必要があるでしょう。

双方向的なコミュニケーション

あなたのプロダクトを販売する最良の方法の見極めは、現地のリーダーに任せます。万能な方法は存在しません。本社の力を借りながら、何がうまく行き、何がうまくいかないか、お客様やパートナーがあなたの技術をどのように利用しているかを確認します。これにより、世界各地でのベストプラクティスを共有でき、ロードマップをグローバル規模で動かすことができます。

同じことが、現地チームにも当てはまります。APJ全体で互いに交流することを推奨して、地域全体でベストプラクティスの相互作用を促せば、成長を加速できます。

データドリブンなプラン

APJプランは、人口密度、見込み客の多さ、GDP、経済力、地政学的問題といった市場要素を考慮に入れた、進化するロードマップであるべきです。新しいオフィスを開設するときは、セールスパイプラインがどのように成長していくか、人材をどう配置するかを認識しておく必要があります。

最良の戦略は、データとアナリティクスを駆使してAPJプランを構築することです。次に打つ手に関する意思決定からはできる限り感情やパーソナリティを排除し、データ自体にものを語らせるべきです。会社側も、データドリブンな意思決定がなされていることを知り、チャンスの規模を理解できれば、より多くの財務的サポートを提供するでしょうし、現場はより積極的なプランを成功裏に進めることができます。

多くの企業にとって、こうした戦略はたやすいものではありません。北米、ヨーロッパ/中東/アフリカ、そしてAPJの企業の上級幹部ならびに技術/データ部門の統括者を対象に最近行われたグローバルサーベイによると、自社が持つデータにアクセスできる企業は50%に留まり、意思決定のほとんどがデータに基づいていると回答した企業はわずか38%でした。これらの数字は、APJにとって朗報だと私は考えます。

初期のお客様は技術的な理由でSnowflakeを購入します。簡単に機能し、使いやすいテクノロジーを必要としているからです。対話の中心は、パフォーマンス、コスト効率性、拡張性、そして迅速なデータ統合となります。APJ全体の成長の初期段階に立ち会っている私たちにとって、急成長のチャンスは豊富にあります。

APJと共にソリューションをすばやく高度化

APJ地域は今後、人口の面でもビジネスの面でも、世界の他の地域よりも速く成長し続けます。疑いなく、APJ地域はテック企業にとってエキサイティングな機会を提供してくれますが、それに応えるには現地に沿ったアプローチが必要です。

ソリューションに新しい試練をもたらすAPJの国々は、プロダクトを高度化する機会をたくさん与えてくれます。例えば日本では、セキュリティプロトコルが重要な関心事です。インドの場合、人口が多く、企業の数や規模が大きいことから、ソリューションの拡張性が重要となります。これらの市場は、プラットフォームの欠点を明らかにし、どうすればより堅牢になるかを示してくれます。さらに、この市場が持つ特性と、得られるフィードバックの多さにより、新しい機能の開発が加速されるかもしれません。

APJのお客様からの要望は、ソリューションを徐々に進化させ、これまで見られなかった新しいビジネス慣習、新しいアイデア、新しいパートナーシップに触れさせてくれることでしょう。ただしそれは、現地に沿ったアプローチを実行し、これらの市場から真剣に学んだ場合のみ実現するものです。