注:本記事は(2021年12月20日)に公開された(What Makes a Great Analytics Roadmap?)を翻訳して公開したものです。

戦略という言葉には注意が必要です。

アナリティクスにおける戦略に必要なものとは何でしょうか。さまざまな人に話を聞き、幅広い回答を得ました。ある意味、はっきりとした正解を確定する必要はないのかもしれません。その戦略が実際に組織の目標達成に沿うものであればよいとも言えます。

ただし、SnowflakeのプリンシパルデータストラテジストであるJennifer Belissentは、戦略は議論しやすい内容であるため、停滞の原因となりやすいと指摘しています。

Belissentは次のように続けています。「多くの人がデータ戦略を持つことにとらわれすぎて、時間を無駄にしています。戦略の定義と称して、行動を先延ばしにしています。私は常に、一般原則や中間成果物を伴う、反復的なアプローチを提唱してきました。」

物事を完了するための公然の秘訣とは、Belissentが説明するように、明確な条件や優先順位を定め、その優先順位を達成するロードマップを策定することです。(Belissentによる投稿、「達成後のビューを明確にすることは達成に値する」には、優先順位付けに関するより詳しいインサイトが記されています。)

Belissentは、戦略決めの停滞から抜け出し生産的な作業に進むための明確かつシンプルな一連の条件を提示しています。

  • 長期目標:最優先事項を明確にした、達成を目指すハイレベルな成果
  • 中間目標:最優先とする長期目標を達成するための具体的な行動
  • マイルストーン:段階的な手段、プロジェクト、優先事項
  • 測定基準:中間目標、最終的には長期目標を達成したかどうかを測定する基準

ロードマップは、このような達成すべき中間のマイルストーンを示したものになります。Belissentは言います。「戦略にこだわりすぎず、何がしたいのか、どのような予定で行うのか、を明確にしてください。」

価値創出までの時間を短縮しつつ組織を全体的な目標達成に導く最初のロードマップを作成するための6つの要素をさらにご紹介します。

素晴らしいアナリティクスプログラムロードマップとは、以下のとおりです。

1. 運営委員会の開催と意見のヒアリング

Belissentによると、多くの企業が、何から着手するのかを見極めるのが一番困難だと考えているようです。

社内でビジネスに焦点を当てたヒアリングから始めるのは非常に良い方法です。

Belissentは次のように言っています。「同僚にデータニーズについて問うのではなく、何が業務を困難にしているのかを尋ねるべきです。」

コンサルタント会社、Tongere Partnersの創設者であるRich Peters氏は、このステップの鍵となるのがビジネスに焦点を当てること、という点に同意し、「ビジネスコンテキストを理解していなければ、データを理解することはできないでしょう」と語っています。問うべき内容には、複数の事業部門において「顧客」をどのように定義するのかといったことまで含まれているかもしれません。

ヒアリングで収集された情報は、運営委員会創設や委員会による最初の作業を導く土台となります。ヒアリングは、採算性の高い潜在的なプロジェクトの特定に役立つだけでなく、プロジェクトの推進を後押しし特定分野においてデータスチュワードとなる可能性の高い、事業部門における最も熱心なステークホルダーの特定にも役立ちます。

運営委員会はこれらすべての情報を使って業務の優先順位付けを行い、ロードマップにおける次のステップを特定します。

ヒアリングは、アナリティクス業務に対する資金集めにつながることもあります。Belissentは次のように説明しています。「協調して実施することでメリットを受ける全員を特定でき、それがちょっとした資金援助につながる場合があります。社内の別の部署で開始したプロジェクトに共通の利益を見出せれば、喜んで資金提供してくれる事業部門があるかもしれない、ということです。」

2. 原則主導型

Belissentは、ロードマップを決定する際の指針となる、データ戦略の一部となる、またはこれから派生した簡単な基本原則の定義を提唱しています。

ロードマップの原則の例として、以下のようなものが挙げられます。

業務の効率化より収益の拡大を優先する。ただしこの逆を原則とする企業もある、とBelissentは指摘します。現時点におけるビジネスの優先事項次第ということです。

できる限り既存のプラットフォームや分析ツールを活用し、徐々に他のレガシーシステムの数を減らしていく。この原則は、ビジネスケースが存在する場合には適用されないかもしれません。しかし、包括的な目標は、統合や維持の必要性を制限しつつ、技術的なスキルセットを集約することかもしれません。

セルフサービス機能を作成する。この原則は、データカタログの作成や使いやすい分析ツールの優先、限りあるデータスペシャリストに対する需要を低減する、といったことを意味します。今日では、データスペシャリストは人員不足となっており、すべての質問に対応することができません。

ロードマップの策定においては、プロジェクトに対するリソースの割り当ての優先順位付けなど、難しい決断を迫られることは避けられません。確固とした基本原則を定めておくことで、ビジネスにとって最も有益な、首尾一貫した選択ができるようになります。

3. 複数オーディエンスへの対応

成功を収めるアナリティクスプログラムを成功させるには、最終的に組織内のあらゆる階層からのサポートや参加が必要です。

つまり、ロードマップは、プロジェクトマネージャーやデータスチュワードのためだけの指針ではなく、コミュニケーションツールでもあるということです。そのため、1つの文書ですべてを網羅することはできません。ある読み手にとっては詳細に書かれすぎていたり、また他の読み手にとっては情報が少なすぎたりする場合があります。

ロードマップはいくつかの階層に分けて策定するのが、より効率的です。

最も上位の階層は、ロードマップを事業戦略や計画に結びつける、戦略レベルの文書です。Peters氏は次のように言っています。「経営陣は投資上の判断を気に掛けています。『これだけの金額、人員、時間を費やす価値があるのか』ということです。彼らは、プロジェクトマネージャーが気にする細部は気に留めません。」

中間階層は、アナリティクスプロジェクトが直面するであろう制約や依存を特定します。より大規模なプロジェクトを開始する前に、組織が備えなければならない能力は何でしょう。さまざまな種類のデータについて、品質、安全、コンプライアンスにおける必要要件は何でしょう。Belissentが言及した例では、多くのマーケティング事例においては有効なインサイトを得るのに80%の精度で十分であるのに対し、ヘルスケアにおけるデータのユースケースでは99%以上の精度が求められます。

Belissentは、ロードマップのこの階層の策定においてはデータスチュワードが非常に助けになる、と言及しています。データスチュワードが事業部門とIT部門やアナリティクス拠点(CoE)との仲介役となることが理想的です。

ロードマップの3つ目の階層は、特異事項のプロジェクトマネージメントレベルまで落とし込みます。

4. 即時の成果を追及するアクション指向

完璧な戦略、完璧なロードマップ — 専門によると、このような考えは人を惑わせるただの幻想であり、特にアナリティクスプログラムの初期にこういった幻想を追い求めるべきではない、と言います。プログラムを進めることが、より重要ということです。

規模にかかわらず、たいていの組織には既に実行中のプロジェクトがあります。アナリティクスに関するCIOパネルディスカッションの参加者によると、「即時の成果」を確立するまで、本格的なデータ戦略の策定を遅らせた企業もあるそうです。測定可能な成果を即時に達成することは、次回の支援や投資を確保するために有効な材料となります。

また、データが完璧になるのを待つべきでもありません。Peters氏によると、10年以上も費やした挙句「マスターデータがめちゃくちゃになり、基本的な質問にも答えられない」状態になった企業もあります。

「かき集めたデータから得られた知見で当面の問題を解決できることがありますが、プロダクションには至らないことがあります」とPeters氏は語ります。このような即時の成果をロードマップに落とし込むことが有効な場合が多いと言えます。 

以下は、時間と共にこのような試験的対応や即時の成果における作業が積み重なり、組織の成熟度が増し、より大きな成果を確保するために役立つポイントとなっています。

5. 反復的 

完璧な計画が存在しないのですから、計画に変更や更新が必要となるのも当然です。実際、このような変更は、全体的なロードマップが機能しており、組織がアナリティクスに対するアプローチを学び、向上していることの証明となる場合が多いと言えます。

Peters氏は「ロードマップは生きている文書」だと言っています。もしロードマップの策定がうまく行われており、組織が必要な基本手順を実施できていれば、最上位の階層は、事業計画や環境に大幅な変更があったとき(経済不況や買収など)のみ変更となるはずです。最終的な目標や優先事項を頻繁に見直す必要がある場合は、ヒアリングや共有する条件の定義において、事前準備が不十分であったことを意味します。

ロードマップの3つ目の階層については、完了済みのプロジェクトで得た知見を落とし込み、スケジュール上の変更を反映させる(今後のロードマップに影響を及ぼす期日に間に合わなかった案件など)という両方の目的において、より頻繁な更新が必要となります。

ロードマップの3つ目の階層については、特に初期段階では、四半期ごとに再検討し修正する計画を立ててください。

6. 永続的な社内のマーケティングスキル開発を含む

Peters氏は次のように語っています。「私の愛するテクノロジーは、それ自体はもはや難しいものではありません。難しいのは人とプロセスです。」

「人とプロセス」という括りには、企業全体におけるデータリテラシーの確立や意思決定におけるデータ活用の増加といったことが含まれています。

有効なインサイトドリブンな企業の構築に向けて、「もちろん会社の指示は必要ですが、草の根レベルのサポートも不可欠です」とBelissentは指摘します。基盤を作る作業、特にヒアリングはステークホルダーの関わりを拡大する、という効果が期待できますが、これはまだ始まりにすぎません。

Belissentは次のように続けます。「さらに、『何をしましょうか』というアウトリーチや社内のマーケティングも継続していく必要があります。」

どんな種類のマーケティングにも、スキルまたはスキルセットが必要であり、インサイトチームはこれらのスキルを継続的に向上させていくべきです。これらのスキルセットには、データリテラシー、ストーリーテリング、効果的なプレゼンテーション、価値測定、さらにさまざまな個々の事業部門やオーディエンスにとって最も有意義なコミュニケーションなどが含まれます。

この作業を成り行きに任せたり単発の研修とせず、スキル習得の一環としてロードマップ自体に組み込むのが賢明な組織と言えます。

ここで挙げた他の要素と同様、プログラムを展開する能力の向上に焦点を当てることにより、時間の経過とともに、データ戦略ロードマップやプログラムの効率性が向上していきます。