注:本記事は(2021年7月28日)に公開された(Scaling a Company to IPO and Beyond)を翻訳して公開したものです。

多くの企業は自社について、上場する準備が万端だと信じたいものです。しかしながら、準備度や実行可能性といったものよりも、勢いや成長の速さの方が優先されてしまうケースが少なくありません。

株式上場するとなると、その高揚感に飲まれがちですが、CFOは、ビジネスには予測可能性があるか、自分にはビジネスを予見する能力があるかといった、耳が痛い問いかけにも答える必要があります。

予測可能性がない場合、あるいはCFOに予見する能力がない場合にはまだ株式公開の準備ができていないと言わざるを得ません。これは、今後も準備ができないという意味ではありません。しかしIPOで実際に求められることに対して準備を整えるためには、真剣に考えるべき項目や実行すべき重要な手順があります。

公開に先立って然るべき行動をする

準備の状況を評価する最善の方法は、公開会社となる前に、公開会社を経営しているように行動してみることです。つまり、どのように事業を率い、説明責任を負っているかを判断するということです。この場合の説明責任とは、取締役会に対してだけではなく、世間一般や機関投資家、官公庁・公的機関、金融規制当局、さらには公開会社になったら集まるであろう大勢の新しい株主も対象となります。

真っ先に確認する必要があるのは、自身の予測の正確性です。取締役会向けには、少なくとも3四半期にわたってガイダンスを提供することを推奨します。その目的は、短いスパンの結果を正確に予測することです。

結果が予測を10~15%も下回るのは明らかに問題ですが、10~15%上方に外れることも同様に好ましくありません。どちらにしても判断ミスがこれほど大きくなると、助言の信憑性がなくなるからです。

予測の精度をある程度まで上げるには、何四半期にもわたって、何度も予測に磨きをかける必要があります。磨きをかけるには、数字以外にも焦点を当てる必要があります。同様に、急成長中の企業として規模の調整に役立つ戦略に投資することも重要です。

  • さまざまな事業部門間でコミュニケーションと信頼を築くプロセスを確立する:ビジネスを予測し正確に先を見通す能力は、部門横断的なコミュニケーションに基づきます。たとえば、顧客が商品やサービスをどのように利用するかを理解するには、財務チームとセールスチームとの緊密な連携が必要です。財務計画&分析(FP & A)チームが上位50アカウントの財務傾向をシェアする際には、「顧客の様子から判断して、この予測は利に適っているか」とセールスチームに問いかければ、ダイレクトに答えが得られます。同様に、エンジニアリングチームは、顧客による使用を合理化するために設計された機能の投入にあたり、財務チームと情報を共有する必要があります。顧客による製品の利用を意図的に減らすような機能は事業にとって長期的には良い結果をもたらす可能性があっても、短期的には減収となる場合もあるため、予測の調整が必要となります。
  • 予算を一元化する:予算を設定しても、各部門が「自分たちの予算だから」という理由をつけて、好きなようにお金を使っているという企業が多すぎます。それは間違いです。私はプログラムや取り組みに関して会社全体が足並みを揃えられるよう、予算を一元化すべきと強く確信しています。資金は目的があって割り当てられているものであり、CFOは支出が目的に合ったものか、チームが資金を効率的に活用しているかを確認する必要があります。
  • 利用率の高い顧客との契約更新機会を追求する:セールスチームは、新規契約ばかり追い求めていてはいけません。現在の顧客基盤のうち、利用率やエンゲージメントが高い顧客との契約更新機会を追求することも重要です。この能力はビジネスの予測力と関連するため、これを支援するプロセスを用意する必要があります。

システムとオートメーションがIPOへの準備度を左右する

企業は、スケールアップの際、収益にばかり注目して社内システムに目を向けないことが少なくありません。これは大きなミスです。IPOに向けたスケールアップの場合、バックエンドシステムに投資し、あらゆる業務にオートメーションを投入する必要があります。システムは必ずしも売上高に影響するものではありませんが、システムがあれば、公開会社として正確な報告ができるようになります。

CFOの視点から見て、強力なERPシステムは必須です。月次決算を迅速に行うことは、どの公開企業にとっても重要な関心事であり、締め作業全体をできる限り自動化してミスを減らす必要があります。さらに、請求システムは、特に消費ベースのビジネスモデルの場合、組織に合わせて規模を調整できるものでなくてはなりません。

最も重要なこととして、リアルタイムな意思決定を下すには、リアルタイムなデータが求められます。四半期内で軌道修正できるよう、正確なファストデータにアクセスできる必要があります。さらに、四半期の終わりには、支出または収益がトレンドを上回っているのか、下回っているのかを確認できなければなりません。

ここで、システムについて3点ほどアドバイスさせていただきます。

  1. 小さいことは良いことだ:限られた数のSaaS製品を中核システムとして標準化し、それらがシームレスに連携するよう徹底します。ポイントソリューションは、選択したプラットフォームよりも規模が大きい場合のみ使用します。目新しい機能を備えているからという理由だけで異なる技術を取り入れる「シャイニーオブジェクト」症候群に陥らないようにしましょう。環境に追加のシステムを導入するということは、SOC 2コンプライアンスの範囲が広がり、監査人の作業が増えるため、コストがかかることになります。
  2. 長期的視野で選ぶ:最低でも5年は使えるシステムでなければ、導入してはいけません。幸いSaaSの世界では、アップグレードが非常に容易です。そのため、クラウドベースのERPシステムは、プロバイダーが自社のプロダクトロードマップに投資とイノベーションを続ける限り、この先20年は役に立つでしょう。
  3. 定期的に見直す:数年ごとにすべてのシステムを綿密に見直しましょう。物事を革新的な方法で実行できる、あるいは拡大するシステム要件に合致する新しいシステムが存在するかどうかを見極めます。

適切な人材に投資し、頼れる司令塔を見つける

高成長の企業のスケーリングとは、会社の現在の立ち位置ではなく、会社が目指している方向に向けて従業員を採用することを意味します。成長には権限を持たせる必要があるため、従業員はリーダーシップチームが信頼できる人材であるべきです。

さらに、私はコーチングやメンタリングの経験が豊富な人材を求めています。意外に聞こえるかもしれませんが、他者のキャリア構築を助けるのが得意な人は、会社を辞めるときに惜しまれることはないでしょう。なぜなら後に残った人たちが、自分自身で問題を解決したり意思決定をしたりできるようになっているからです。コーチやメンターは組織全体をレベルアップさせ、より優れた従業員を育てます。

非公開会社から公開会社への移行を成功させるには、公開会社に付随する締切りの現実について、従業員に認識を改めさせることが重要です。財務チームの場合、月次決算および四半期決算のプロセスが増える中、報告書の厳しい締切りに間に合わせる必要があります。ここでは統制が必要となります。

IPOは規制の観点から見て達成が難しいと考える人が多いようですが、それは大きな誤解です。公開企業になることは、実は非常に簡単です。確かに、時間はかかり、法的要件を満たすためには多くの面倒な作業をこなさなければなりませんが、難しくはありません。最も重要なことは、計画を進める司令塔を見つけることです。部門横断的なチームの足並みを揃え、遅れが生じないようスケジュールを前に進めることができる人物が適任です。

どのようなIPOでも、財務と法務の完璧な連携が必要です。プロダクト管理についても同じことが言えますが、製品の知識やロードマップの専門知識にのめり込みがちです。コミュニケーション、連携、信頼といったあらゆる要素が作用しますが、すべてを軌道から外れないようにするには、司令塔のポジションが不可欠です。

会社の規模と市場の規模

ここで現実を直視しましょう。公開企業となるべきではない企業はたくさんあります。買収の候補となるか中小企業のままでいた方が良い場合もあるということです。重要なのは、自分たちが目指している市場機会はどれくらい大きいか、自分たちが何の問題を解決しようとしているかを理解することです。ポイントソリューションでしかなく、収益が数億ドルに満たない企業が公開会社となることは、本当に理に適っているでしょうか。

IPOを検討している企業は、なぜ公開企業になりたいのか、詳細な調査に対して会社として準備ができているかを含め、入念に検討することが重要です(公開会社になると必ず詳細な調査が待っているため)。検討すべき項目は次のとおりです。

  • 大きな投資が必要か。必要なら非公開会社として行うのと公開会社として行うのと、どちらが有利か。
  • 会社の規模を調整する能力に自信があるか。 
  • 収益性の目途はついているか。
  • 収益の成長以外にも自社ビジネスの強みを示すことができるか。
  • 自社に興味を示している投資家がいるか。

IPOに向けた意思決定は、決して軽く考えるべきではありませんが、それに付随する事柄すべてに対して万全の準備が整うとすれば、非常に有意義なものとなるでしょう。飛ぶボールをしっかり見すえ、その方向、ただし、飛んでほしい方向ではなく、ボールが実際に飛んで行く方向を見極めることです。