注:本記事は(2021年10月18日)に公開された(Don’t settle for multi-cloud. Aspire to cross-cloud.)を翻訳して公開したものです。

組織では、マルチクラウド上でデータやアプリケーションを実行する頻度が増えています。それは素晴らしいことですが、マルチクラウドだけでは十分ではありません。ビジネスでデータの真の力を解き放つには、クロスクラウドが必要です。

クロスクラウドとは、一切の追加作業なしに、複数のパブリッククラウド間でデータを簡単に移動できることを意味します。つまり、データやアプリケーションがどこに常駐しているか、ビジネスや技術担当者がどこの拠点にいるかを心配する必要が全くなくなるわけです。クロスクラウドの場合、主要なパブリッククラウド間でシームレスな使用感が得られるため、クラウド版のデータサイロに陥ることはありません。最も重要なことは、クロスクラウドは管理されたデータへの安全なアクセスと共有をグローバル規模で実現する道を開くという点にあります。

マルチクラウドは今日のビジネスをいかに実現させたか

クロスクラウドについて書くには、まず私たちがマルチクラウドに至った道のりを振り返る必要があります。Snowflakeが歩んだ道は、他のSaaSプロバイダーやSaaS利用者のそれと大差ありません。当社は1つのクラウドプロバイダーの、1つのリージョン内で開発、デリバリし、グローバルにデプロイするところから始めました。

ソリューションを本稼働させると、ある現実が浮かび上がってきました。カスタマーは当社に、遅延の問題に対処し、データ主権の要件を満たし、データ転送に付随する費用を回避する手助けを求めました。こうしたデータにまつわるニーズから、当社はその1つのプロバイダー内の他のリージョンにもSnowflakeをデプロイすることになりました。そうなると当然、カスタマーは複数のクラウドプロバイダーへの対応も求めるようになりました。

このマルチクラウドへの道のりは、1つのリージョンから複数のリージョン、そして複数のクラウドへといった有機的なシフトでした。当社はデータがどこにあろうとも対応してきました。もちろん、これからも同じです。

企業の規模の大小や、展開がグローバルかローカルかという点が異なっていても、各所で見聞きするマルチクラウド関連のストーリーは同じです。地域の規制条件や買収など、さまざまな理由で、データセットやアプリケーションが複数のパブリッククラウドに常駐しているという組織が多くなっています。

そして、この状況はさまざまな意味で便利であることが分かっています。グローバル企業にとって、マルチクラウドはデータ遅延、単一ベンダーへの縛り、転送(egress)コストといった課題を解消してくれるものです。これによりシステムのフェイルオーバーが可能となり、データの弾力性や高可用性が確保されます。

このように、マルチクラウドには魅力的な利点がありますが、短所もいくつかあります。たとえば、マルチクラウド戦略は境界線を生み、クラウドデータのサイロの原因となります。多くの場合、企業はクラウド間でデータをコピーしたり移動したりせざるを得なくなります。その結果として、データマートが無秩序に広がることになります。

リスクを軽減し、さらに多くの機会をもたらすクロスクラウド 

クロスクラウドとは、データが常駐するクラウドによる拘束がなくなり、パブリッククラウド間を簡単に行き来できるようになることを指します。 

念を押しておきますが、これは簡単な仕事ではありません。パブリッククラウドプロバイダーはそれぞれ独自の革新的かつ専有的な手法でデータを処理しています。このことが、あるクラウドから別のクラウドへデータを移動することを難しくしています。クロスクラウドは、データを各プロバイダーで適切で処理しながら、どこにデータやアプリケーションが常駐していようとシームレスなエンドユーザーエクスペリエンスを提供することで、こうした問題を解消します。

また、クロスクラウドでは、技術的または突発的な不具合が発生した場合にも、ビジネスの継続性が確保されます。たとえば、規制の厳しい業界で事業を展開している企業は、ミッションクリティカルなアプリケーションの高可用性を必要とします。つまり、データ主権と完全なデータ可用性ということですが、これはミッションクリティカルなシステムのフェイルオーバーとフェイルバックを通じてのみ実現できます。もちろん、フェイルオーバーに向けてデータのレプリケーションを作成する最良の方法は、複数のクラウドを利用することです。1つのクラウドプロバイダーがダウンしても、他のクラウドプロバイダーを使用できます。これは、クロスクラウドのメリットのほんの一部です。

しかしこれらはすべて、最低条件に過ぎません。ビジネスの変革を可能にするのは、最先端のデータシェアリングであり、クロスクラウドはそれをグローバル規模にまで引き上げます。最先端のデータシェアリングでは、2つ以上の組織がシームレスにデータを共有することが可能となり、数年前までは想像もできなかったような膨大なインサイトや新しいビジネス機会が得られます。

今や、事業部門内や他の事業部門、さらにはビジネスパートナーのエコシステム内でシームレスにデータを共有し、データマーケットプレイスを通じて管理されたデータを売買できます。最先端のデータシェアリングは、データプロバイダーと消費者間をライブでつなぐため、データの移動はなく、常に最新で、いつでも利用可能です。クロスクラウドは、最先端のデータシェアリングをグローバル規模に拡大し、1つのクラウド内や複数のクラウド間のリージョンの垣根を解消します。このようなデータアクセスにより、どの組織も、以前は考えも及ばなかった新しい商機を見出すことでしょう。

クロスクラウドを導入するには

クロスクラウドを達成するには、プラットフォームレベルでの対応が必須です。具体的に言うと、最先端のクラウドデータプラットフォームを利用することで、組織はデータのアクセス、一元化、および分析を、ほぼ無制限の規模、同時実行性、およびパフォーマンスで行うことができます。これらのプラットフォームにより、組織はサイロ化されたデータを統合し、管理されたデータの発見と安全なシェアを行い、多様なアナリティクスワークロードを実行できます。

真のクロスクラウドを実現するには、データ層での抽象化を実現でき、さらに特定のクラウドに依存しないクラウドデータプラットフォームが必要です。どのクラウドプロバイダーがデータやアプリケーションをホストしていても、データプラットフォーム内でのユーザーエクスペリエンスは常に同じでなければなりません。

結果として、個々のSaaSアプリケーションによって生まれたデータサイロが解消され、信頼できる唯一のデータソースが実現するとともに、ローカルでもグローバルでも最先端のデータシェアリングが可能になります。クラウドデータプラットフォームはすべてのデータの重心となり、組織は各クラウドプロバイダーの良いとこ取りをして、より強力で迅速なサービスをカスタマーに提供できます。

つまり、クラウドを簡単に追加、移動、または変更できる自由が得られるということです。この選択は、技術的な意思決定というより、ビジネス上の意思決定となります。たとえば、ある組織が、同じクラウドデータプラットフォームを使用していながら、データを他のパブリッククラウドに置いている他社を買収したとします。このような場合、データプラットフォームにより、すべてのデータを1つのクラウドにまとめることも簡単にできますし、組織はそのまま、マルチクラウド、クロスクラウドのエンティティとしてやっていくことも可能です。どちらでもビジネスに適した方を選択するだけです。

価値あるものの常として、クロスクラウドに移行するには、特にデータのレプリケーションと転送(egress)に関連するコストが伴います。データがレプリケーションされるごとに料金が発生し、複雑さが増します。しかし、このような事態を最小化するには、クラウドデータプラットフォームには最初のデータ同期後に生じたデータ変更のみを送信する賢さが必要です。この手法は、カスタマー環境をコスト効果的に最適化し、レプリケーションを効率化する手段を提供します。

エンタープライズがデータにこのような柔軟性を必要としているのは、ビジネス環境が、カスタマーやパートナーが、そして従業員がそれを求めているからです。この現実は特に、データとアプリケーションの可用性がユーザーからひたすら期待されるSaaSプロバイダーにとって顕著です。

アプリケーション開発がクラウドデータプラットフォームのメリットを高める

現在、SaaSプロバイダーの多くは、クロスクラウドではなく、マルチクラウドです。つまり、プロバイダーが複数のクラウドを運用している場合、カスタマーは同じSaaSプロバイダーから2、3の異なるプロダクトを買うようなものです。カスタマーがどこでアプリにアクセスするか、またカスタマーのデータがどのクラウドに格納されているかに応じて、エクスペリエンスも変わってきます。

クロスクラウドを導入すると、アプリケーション開発が生まれ変わります。SaaSプロバイダーはクラウドデータプラットフォームを基礎としてアプリケーションを構築でき、本質的にどのパブリッククラウドからでもデータにアクセスし、利用できます。また、アプリケーションをクロスクラウド対応データプラットフォームで開発すると、少なくとも次の2つの問題が解決します。

  1. データの所有権:SaaSプロバイダーがデータに何らかの処理をしようとすると、データの所有権がないことが問題となることが少なくありません。しかし、クロスクラウド対応データプラットフォームの場合、アプリケーションはまさにデータプラットフォーム上に置かれるため、アプリケーション開発者は所有権を得る必要がありません。すべてのデータはデータプラットフォーム内部にすでにロードされており、追加の手順の必要なしにアクセスし、利用できます。
  1. 簡単なデプロイメント:バックエンドデータベースやオープンソースツールを使用してネイティブアプリを開発するときは常に、そのアプリをクラウドからクラウドへ、およびリージョンからリージョンへ移植する必要があります。しかし、クラウドデータプラットフォームの場合、SaaSアプリケーションは、追加の作業なしに、どのクラウドやリージョンにも置くことができます。アプリは1つの場所から1回デプロイすればよく、新しくデプロイしたり、新しいリージョンに進出したり、新しいクラウドを追加するたびに一から作り直す必要はありません。個々のSaaSアプリによって作成されたデータはすべて、単一のリポジトリで利用可能です。

これらのポイントはいずれも、クラウドデータプラットフォームが次世代のSaaSアプリ開発にもたらす固有の価値提案に相当します。クロスクラウドのおかげで、アプリを開発し、どこにデプロイするかを選ぶだけで、どのクラウドでもカスタマーエクスペリエンスは全く同じです。

クロスクラウドでデータの垣根を解消する

状況、経験、反省と、きっかけは何であれ、企業は今や、マルチクラウドが強力な経営戦略であることを認識しています。しかし、複数のパブリッククラウド全体でシングル・ソース・オブ・トゥルース(信頼できる唯一の情報源)を実現させたい組織であれば、クロスクラウドこそがこれまでの流れを一変させるものであり、理に適った次の一手であると言えます。 

クロスクラウド機能を持つクラウドデータプラットフォームを選択することで、組織はもはやデータがどこに置かれているか、あるいはクラウドプロバイダーの変更がデータアクセスにどのような影響を与えるかといった点を考慮する必要がなくなりました。つまり、データがプロセス内でサイロ化されるか否かではなく、ソリューション間の差別化要素に基づいて意思決定を下すことができます。

私は個人的に、SaaSプロバイダーがクロスクラウドを活用して、データの常駐場所やアプリケーションの運用場所に全く依存しない、優れたアプリケーションを構築することに最も期待しています。クロスクラウドが現実のものとなった今、未来はイノベーションの可能性にあふれています。データに境界線がなくなると起きること、それはまさにイノベーションです。