注:本記事は(2022年6月9日)に公開された(Cloud Computing Technologies Are Driving Value-Based Healthcare Collaborations)を翻訳して公開したものです。

クラウドコンピューティングテクノロジーの持つ拡張性、柔軟性には、長年求められていたヘルスケア業界におけるデータコラボレーションの機会を広げる可能性が秘められています。クラウド以前のコンピューティング環境用に設計されたデータプラットフォームアーキテクチャには、ヘルスケア組織によるコラボレーションを阻む制約がありました。そのようなプラットフォームの中には、クラウドサービスとして利用できるように転用されたものもありますが、患者アウトカムの向上を推進するために利用できるデータへのアクセスは、根底を成すアーキテクチャにより制限されたままとなっています。

クラウドファーストなデータプラットフォームは、ヘルスケア組織が抱えていたデータの収集、分析、共有における障害の克服に役立つほか、エビデンスベースのコラボレーションにおいて有意義かつ飛躍的な前進を後押ししてくれます。本記事で詳しくご紹介します。

データの収集

Pew Charitable Trustsの最新の調査によると、米国成人のほとんどが患者やヘルスケアプロバイダー向けの健康情報へのアクセス向上を支持しています。実に81%もの人が、異なるプロバイダーでも、共通の患者の健康データを共有できるべきであると考えています。しかし多くの場合は「言うは易く行うは難し」といった状況となっています。患者のデータは、数えられないほどのソースから生成されており、さまざまな形式で提供されています。さらに、一部の患者データに対し一般的なデータモデルを標準化しようとする業界の取り組みも、複雑さに拍車をかけています。その結果、すべての患者データを収集して信頼できる唯一のエビデンスソースとすることがほぼ不可能となり、患者アウトカムに影響する要因を確実に特定するために必要な、組織内外とのダウンストリームでのコラボレーションに影響が及んでいます。

例:

  • 観察医療アウトカムパートナーシップ(OMOP)のフォーマットは、償還請求や電子カルテ(EMR)の基準となっています。
  • 米国食品医薬品局(FDA)のような規制機関は、申請臨床試験データモデル(SDTM)に沿うために臨床研究データを必要としています。 
  • 診断装置より得られる非構造化データは、CTやMRIスキャン用のフォーマットである医用デジタル画像と通信(DICOM)のようなさまざまな規格に準拠しています。
  • ゲノムシーケンサーからアクティブトラッカーまで、インターネットオブメディカルシングス(IoMT)では、JSON、XML、VCFのような従来のリレーショナルデータベースに「適合」しない半構造化形式のデータが多数生成されています。

クラウドベースのデータプラットフォームは、クラウドストレージの柔軟性と拡張性を生かしてデータ収集における問題を解決し、あらゆる構造化、半構造化、非構造化形式の患者データを一元化された単一のリポジトリに集約し、単一のシンプルなインターフェースで利用できるようにします。クラウドオブジェクトストアでは、高度に構造化されたCSVデータから半構造化VCFデータや非構造化DICOMファイルまでのすべてが、低価格かつオンデマンドで、ほぼ規模の制限なく一元化されることになるでしょう。その後は、データをエビデンスとするために必要な分析的インサイトを得る目的で、さまざまな患者情報にアクセスすることが課題となります。 

データ分析

患者データはソースや構造が多様なため、異なる形態の情報をひとつのリポジトリに集約するだけでは充分とは言えません。多くの要因がアウトカムに影響を与えるような決定的なインサイトを得るためには、利用可能なデータすべての徹底した分析が必要です。従来のリレーショナルデータベースにおける課題は、リッチで有意義な患者データを分析のために変換する必要があり、それが複雑性やアクセスへの障壁の要因となっていました。さらに、ストレージと処理能力の密な結びつき(クラウド以前の固定容量環境用に設計された多くのデータベースで典型的)により、データの新規調査または調査の同時実行による需要の変化に対応するため、追加インフラストラクチャをプロビジョニングしなければならないケースも少なくありません。この場合も、運用の複雑さやコスト、データアクセスの障壁が生じます。

クラウドストレージやコンピューティングリソースを最大限活用するために設計されたデータプラットフォームが、これらの技術的限界を解消してくれます。今では、処方箋や請求データといった従来の構造化情報に加えて、遠隔医療アプリケーションからコネクテッド医療デバイスデータまで、リッチな半構造化形式の患者情報に、SQLを使用して瞬時にアクセスし、事前処理や変換作業を行うことなく、分析することができます。コンピュートリソースからストレージを論理的に徹底して分離することで、これらのリソースを個別かつ瞬時にスケーリングできるため、データアクセスにおける従来の障壁や複雑性が排除されます。これは、機械学習やAIの最先端技術にとって特に重要です。機械学習やAIは実行に比較的大きな処理能力を要するため、従来は管理に手間のかかる高価な専用ハードウェアが必要とされていました。

データシェアリング

価値ベースのコラボレーションの中核を成すのは、安全で管理された患者情報の交換や共同アクセスです。しかし、従来のデータプラットフォームでは共有データの容量、頻度、使用が著しく制限されていました。API、ファイル転送、メールに添付されたスプレッドシートなどのデータ交換のメカニズムは、データの物理的な複製や移動を伴うレガシープロセスに大きく依存しています。複製や移動に関連するデータ「ホップ」はレイテンシを引き起こし、アクティビティトラッカーなどのコネクテッドデバイスから得られる高頻度の患者データの価値を損ないます。さまざまなロケーションで同一データのコピーを複数作成すると、異なる関係者が別々のコピーを処理することになり、バージョン管理や参照可能な「ゴールデンレコード」の維持がさらに複雑化します。また、患者のプライバシーやデータガバナンスの観点からも、重要な個人情報の物理的な複製、移動、匿名化、保護の必要性がデータシェアリングの障害となってきました。

クラウドファーストなデータプラットフォームアーキテクチャは、クラウドコンピューティングリソースが持つ拡張性、柔軟性を維持したまま物理的なデータの複製や移動の必要性を排除するという、情報交換におけるまったく異なるアプローチを実現しています。例えば、COVID-19リサーチデータベースは、30社以上の米国のヘルスケアやテクノロジー企業が提供するデータ(請求、電子健康記録(EHR)、ラボデータ、人口統計データなど)を利用し、安全かつ匿名化された患者データセットを提供して公衆衛生や政策の研究者が無料で利用できるようにするとともに、ヘルスケアおよびテクノロジー企業がHIPAAコンプライアンスを維持したデータ提供を行えるようにしています。処方箋、診断、患者履歴、請求、償還といった従来のデータアセットと幅広い代替アセットを統合するため、多くの医療エビデンス情報の交換ツールが登場しています。コラボレーターはこの交換に参加し、特定のアセットに対して、安全で粒度の高い、リードオンリーの(または読み書き可能な)アクセスを要求したり受け取ったりすることができます。

ヘルスケア組織が価値ベースのヘルスケアを通じて患者アウトカムの向上を成功させるには、障害なく、さまざまなソースからインサイトを収集しデータを連携する必要があります。大手のヘルスケア組織は、Snowflakeヘルスケア&ライフサイエンスデータクラウドの最新のデータ機能を活用し、価値ベースのヘルスケアコラボレーションを推進しています。詳しくは、「リアルワールドエビデンスのためのヘルスケア&ライフサイエンスデータクラウド」のホワイトペーパーをご覧ください。

リアルワールドエビデンスのためのヘルスケア&ライフサイエンスデータクラウド:患者アウトカムの推進に向けた徹底したコラボレーションアプローチの構築